ハロウィンの飾り箱に隠されてアメリカに届いた孫毅のSOS (C)2018 Flying Cloud Productions, Inc.
◆弾圧された当事者が撮った中国のリアル
「大切なのはリアリティでした。最初はキヤノンの一眼レフを使って撮影しましたが、大きすぎるのでiPhoneを使うようにしました。周囲に怪しまれないように大部分は孫さんが電話をかけるフリをして撮影しました。本来、撮影中はじっとしている必要があるけど、孫さんは慣れていないのでどうしても動いてしまう。しかし経験がないことが逆に功を奏し、その瞬間、彼が目にしているものを撮影することができました」(リー監督)
素人カメラマンゆえに緊迫感のある映像を撮ることができたのだ。事実、リー監督のもとには「孫さんと一緒にいたような気持ちになった」という観客の声が多く寄せられている。
また映画では、当局の動向に振り回される孫自身の姿もリアルに映し出されるが、それらは孫の複数の友人がこっそりと撮影したものだ。撮影協力者は安全のため現在も完全に匿名で、リー監督に協力者の素性を尋ねても「グッドピープルです」と語るのみだった。
中国当局の傍受を避けるため、撮影した映像の受け渡しには最大限の慎重を期した。まずいくつかのビデオファイルを圧縮して暗号化されたサイトにアップロードし、それを見たリー監督が次の指示を出した。たまった映像はハードディスクで中国の外に持ち出した。
「詳しくは明かせませんが、中国からの郵便では送れないので、4か月かけて何人もの人の手を介してようやくカナダに届きました。私がハードディスクを入手した時点で孫さんがパスワードを教えてくれた。パスワードを間違えたらハードディスクがロックされる仕組みで、入力した文字は非表示になるのでチェックできなかった。最後の一文字を入れるときはすごく緊張しましたね(苦笑)」(リー監督)
ハードディスク4つに及ぶ膨大な映像を無事に受け取ったリー監督はすぐに編集作業に着手した。だがその最中に「孫が逮捕された」とのメッセージが届いた。
「彼の逮捕を聞いたときはどうすればいいかわからなかったし、何もすることができなかった。幸いにして病気のため釈放されましたが、私はすぐに中国から出るべきだと思った。そう告げると孫さんは『まだ出たくない。もっと映像を撮って送りたい』と言いましたが、『私の言うことを聞く時期です』と説得して中国から出国させました」(リー監督)