◆施設の監視役まで出演
リー監督の手助けもあり、2016年12月に孫は中国を出てインドネシアのジャカルタに着いた。長い間スカイプでやりとりしていたふたりは、当地で初めて実際に会った。
「1年間も画面を通じて交流していたので不思議な気持ちがしました。旧友のようであり、知らないことも多い。それでも実際に会うと彼はお兄さんのようで、何でも話せる気がしました。私のことをジャッジするのではなく、理解してもらえたんです。孫さんは常に他人のことを考え、何でも包み込む水のような思いやりを持つ人でした」(リー監督)
孫の人柄は別の面からもうかがえる。映画では、馬三家労働教養所で孫の監視役として拷問を担当した中国人が顔出しで登場し、孫について「見た目は貧弱な学者のようだが、気骨があると感じた。尊敬している」と証言するシーンがある。「犯罪者」を称賛するなんて、当局からのプレッシャーを考えたら、にわかには信じられない場面であるである。
「ある日、孫さんが『グッドアイデアがある。馬三家の監視役にインタビューしたい』と言ったので、私は『ノットグッドアイデア』と答えました(苦笑)。監視役が裏切って警察に訴えるかもしれませんからね。でも孫さんは『映画のためだけでなく、彼らが贖罪する唯一の機会になる』と譲らなかった。
映画の公開前、監視役に『この映像を本当に使ってもいいか。怖くはないか』と確認すると、『生まれて初めて真実を話した。何も怖れるものはない』と語りました。監視役が心を入れ替えるまでの孫さんの長い苦しみを想像すると、言葉では言い表せません」(リー監督)
中国人に基本的人権が与えられるために、リスクを負っても真実を伝えたい。そんな強い意志をもった孫の努力と人柄によって、現在の中国をリアルに描く映画が完成した。