外出自粛要請が続く中、住宅街ではお酒の空き缶ごみが増加している(時事通信フォト)

外出自粛要請が続く中、住宅街ではお酒の空き缶ごみが増加している(時事通信フォト)

 ごみ収集事業にも色々あって、いわゆる公務員、役所の環境保全課や廃棄物処理課などの技能業務職が一番の好待遇で年齢を重ねれば生涯収入は桁違いだという。もっとも今では現業採用は少なく、ほとんどが矢野さんの勤めるような業者に民間委託しているので採用そのものが少ないか、下手するとない。先の定年退職した元職員は昔、採用枠6人のところ応募者が6人で全員合格だったそうだ。ごみ収集のおじさんなんか誰もなりたがらなかったからと笑うが、いまなら大激戦だろう。

「このまま家族で楽しく暮らせればいいやと思ってたし、俺は恵まれてると思ってたよ、それがまさかコロナなんてね、死にたくないね」

 矢野さんはコロナの蔓延する町中を走り回り、コロナに感染しているかもしれない、誰とも知れない市民のごみを集め続けている。

「ティッシュの山とか使い捨てマスクが袋から透けて見えると怖いね、前は焼き鳥の串とか汚物とかだったけど、そんなんじゃ死なないからね」

◆あの家はコロナとか言われてるんだ

 ゴミ収集は常に危険と隣合わせの仕事だ。身勝手に出されたゴミばかりの中、慣れないうちの小さな怪我はしょっちゅうで、矢野さんのようなベテランでもうっかりガラスの破片や鋭利な刃物に触れてしまうことがあるという。世の中というのは勝手なもので、税金を払っているんだからとルールを守らず可燃ゴミに包丁をそのまま出すとか、いったい何に使ったのか家庭ごみの中にインスリン用などのそれとは違うガチの注射器や注射針があったりする。しかし目に見える恐怖より、コロナのほうが怖いと矢野さんは訴える。

「コロナにかかった人のごみかもしれないでしょ、ティッシュの山とか鼻や口を拭きまくったのかもしれないし、マスクだってそうだ。やっぱり怖いよ」

 意外と知られていないが、各自治体ともコロナ感染対策としてのごみの捨て方のガイドラインを説明している。使用済みのマスクやティッシュはビニール袋などでしばって封をする、血液や粘液などの大量付着などはプラスチック容器に入れて捨てるなど、ビニール袋はプラスチックとして出す厳しい自治体でも、もえるゴミで構わない。

「それに家庭ごみが増えてるんだ。みんな家にいるからね。行ったり来たりが多くなるから時間がかかる」

 これも誤解している人が多いが、ごみ収集のためのパッカー車は収集場所や個宅すべてを一度に回って帰るのではなく、満杯になるたびにクリーンセンターなり、環境美化センターと呼ばれる集積場、焼却場に持ち込んで、いったん空にしてからまた続きのルートを回る。その回数が多くなれば、それだけ時間のロスになる。

「1分たりとも遅れは許さないって監視する人もいるよ、ちょっと変な人だと思うけど、こっちは言うこときくしかないよね。すぐ市の相談センターに苦情がくるからさ。これも、こっちは言うこときくしかないよね」

 相談センターには時間通りに来ない、ごみを散らかしたなどの苦情から朝から音がうるさい、無駄話をしていた、目つきが気に入らないなどめちゃくちゃな苦情まで寄せられる。

「いまはほんと時間かかってるよ、こんな量は初めてだ。だから時間どおりにはいかないね、もうしょうがない」

 かつて公務員だった作業員の中には苦情上等で食って掛かる者や知ったこっちゃないで通した猛者もいたが、そんなものは昭和の話で受注業者である矢野さんの会社も矢野さん自身も強気な態度をとれるわけがない。黙々と作業するしかないのだ。

「でもそんな苦情はどんな仕事したってあるでしょ、俺もこの年までいろんな仕事を経験したからわかってるよ。だけどコロナだけはきつい、いろいろ考えちゃうよ」

 コロナの影響が予想外の規模で矢野さんを襲った。それはコロナそのものではなく、心無い市民によって。

「露骨に避けられるね、そりゃごみ収集なんかやってりゃそんなの気にしないんだけど、あんた感染してないだろうね?とか、コロナが伝染るなんて言われるんだ。急いで出すのに走ってくる人がいたからいつものように受け取ろうとしたらその場に放り投げられたりね、目の前で消毒スプレーされたり、まあ気をつけてるんだろうけど、切ないよね」

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