◆ライバルは百貨店ではなくデベロッパー

 百貨店の市場規模が縮小する時代に、「有事」のリーダー2人が取り組んできたのが、既存の百貨店とは異なる新たな事業モデルの構築だった。

 2007年、大丸と松坂屋の経営統合で百貨店再編の口火を切って以来、J.フロントリテイリングは「自社で仕入れて売る」百貨店モデルからの脱却を目指してきた。テナントを誘致し賃料で稼ぐ不動産ビジネスへと転換を図ったのである。

 2012年、都心でファッションビルを経営しているパルコを買収した。J.フロントは百貨店のパルコ化、都心型ショッピングセンター化へと邁進する。

 そして、奥田氏は2014年5月の株主総会で社長を退任。経営改革のバトンを山本氏が引き継いだ。

 山本氏は2017年、松坂屋銀座店の跡地に百貨店の名前を消し去った「GINZA SIX(ギンザシックス)」を開業。総事業費は830億円。銀座6丁目にそびえ立つこの巨大商業施設が「脱・百貨店」の一つの答えである。

 2019年には創業の地ともいえる大丸心斎橋店本館(大阪市)をテナント主体の店に衣替えした。また、今年2月には65%出資していたパルコを完全子会社にした。若者向けのテナント誘致・育成に強みがあるパルコを前面に押し立て、大手デベロッパーと競争する。

 こうして奥田務氏、山本良一氏と「有事」のリーダーが2代続いた。

「新社長の好本達也さんはワンポイントじゃないか。山本さんの前の社長(茶村俊一氏、松坂屋出身)もそうだった。次の事業会社(大丸松坂屋)社長の澤田太郎さんが“ポスト山本”の本命。澤田氏が有事のリーダーとなる可能性がある」(J.フロントの関係者)

 との声もある。澤田氏は大丸神戸店長、大丸心斎橋店長を経て2017年5月、大丸松坂屋の取締役兼常務執行役員に就いていた。

 いずれにせよ、J.フロントのライバルは、いまだに百貨店モデルに固執している三越伊勢丹ホールディングスではない。丸の内の再開発を進める三菱地所や、日本橋をリニューアル中の三井不動産、渋谷に多くのビルを建てている東急グループの東急不動産だ。そして、2020年2月決算で不動産ビジネスが営業利益の4割を稼ぎ出すところまできた。

「脱・百貨店」が一段落したと判断したのだろう。山本氏は取締役会議長に就く。新社長の好本氏は大丸(現・大丸松坂屋百貨店)に入社後、約20年間、大丸心斎橋店に勤務した後、2003年の大丸札幌店(札幌市)の開業、2012年の大丸東京店(東京・千代田区)のリニューアルを主導してきた。

 好本次期社長に課せられた喫緊の課題は「脱・百貨店」の加速、完成である。

エイチ・ツー・オー(H2O)リテイリングの荒木直也社長(時事通信フォト)

エイチ・ツー・オー(H2O)リテイリングの荒木直也社長(時事通信フォト)

◆インバウンド景気消えた関西の雄

 同じく百貨店で関西の雄、エイチ・ツー・オー(H2O)リテイリングは、傘下の阪急阪神百貨店社長の荒木直也氏が4月1日付で持ち株会社の社長に持ち上がった。

 荒木氏は阪急うめだ本店を関西随一のデパートに育てた商売人だ。インバウンド景気で百貨店の業績は西高東低だったが、コロナで逆回転を始めた。だからH2Oは苦しい。

 阪急うめだ本店は総額25億円を投じ、4月までに順次改装する予定だった。阪神百貨店梅田本店は2021年秋に全面開業の予定だ。苦戦している総合スーパーのイズミヤや阪急オアシスの立て直しが急務である。

 荒木新社長はコロナ台風が襲来、時化(しけ)での出航となった。

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