◆存亡の危機。再建請負人を招く
アパレル業界は存亡の危機だ。「バーバリー」というキラー・コンテンツを失った三陽商会は社長と副社長を入れ替える奇策で、有事体制へと強引にギアを切り変えた。
5月末開催の株主総会を経て、中山雅之社長が副社長に降格する。中山氏は1月1日付で、社長に就任したばかりだから、わずか5か月の短命政権だった。
新しく社長になる大江伸治氏は3月1日付で副社長として三陽商会に入社した。それまで三井物産に37年間在籍した後、スポーツアパレルメーカー、ゴールドウィンに再建請負人として招聘され、見事、業績を回復させた実績を持つ人物だ。大江氏は中山氏よりも1回り上の72歳。失礼ながら、ロートルだ。「今は非常時」(中山社長)とはいえ、普通では考えられない人事である。
三陽商会は2015年、基幹ブランドであった「バーバリー」とのライセンス契約が切れて以降、4期連続の赤字。ジリ貧が続く同社の再生は容易ではない。
また、三陽商会を巡っては、大株主の米ファンド、RMBキャピタルが社外取締役による経営刷新を求め、株主提案する構えだ。5月26日開催予定の株主総会では経営側とファンドの委任状争奪戦に発展するかもしれない。
三井物産は三陽商会の実質筆頭株主(名義は日本トラスティ信託口)である。「物産は直接社長を出す代わりに、ゴールドウィンに転じた大江氏を送り込んだ」(物産の元役員)
物産の旗印を背負った大江氏がファンドを迎え撃つ。ファンドを退けた後の大江氏の最後の大仕事は、「三陽商会の“嫁入り先”を見つけること」(アパレル業界の最高首脳)。コロナ禍、アパレル業界の再編淘汰は待ったなしである。