「私は若い頃に国立循環器病研究センターで心臓移植患者を診察し、救急医療も担当していました。当時の日本では心臓移植の技術はあるのに、『脳死』の倫理的な問題がクリアになっていなかった。“脳死をしたら臓器を提供します”という方はたくさんいたのですが、実際に認められず、心臓移植が必要な若い患者さんが亡くなっていくのを目の当たりにして悔しい思いをしてきました。
現在は法律によって基準が整備され、運転免許証や保険証の裏に署名をしておけば、自分が脳死した場合の臓器提供の意思を示すことができます。
この『譲カード』も、所持して自分の意思を示しておくことで、いざ自分が重症化した際に医師がほかの“助けられる命”の治療へ移行しやすくなると考えています」
自身もカードに署名したという石蔵氏は「賛否両論はあるでしょう」としたうえで、こう話す。
「自分ではまだ大丈夫だと思っていても、60歳を過ぎたら免疫力が低下し、いつ死んでもおかしくありません。そのことを踏まえて、60歳以上になったら、限りある医療資源を働き盛りの若者に譲るという選択肢を考えるべきではないでしょうか」
※週刊ポスト2020年5月22・29日号