表面には次のように記されている。
〈新型コロナウイルス感染症で人工呼吸器や人工肺などの高度治療を受けている時に機器が不足した場合には、私は若い人に高度医療を譲ります〉
石蔵氏は、夫の言動への不平や不満がストレスとなり、妻の体に異変が生じる状態を「夫源病(ふげんびょう)」と命名したことで知られ、2001年には全国に先駆けて「男性更年期外来」を大阪市内で開設した。
高齢者の生き方を研究するスペシャリストでもある医師がなぜ、「老人が若者に命を譲ること」を提唱するのか。
「ICUやECMOが足りない日本で新型コロナの重症者がさらに増えると、現場の医療従事者は『命の選択』を迫られるかもしれません。激務の医療従事者に重い精神的負担を強いるのは酷なので、『高齢者が万が一の時、高度医療を若者に譲るという意志』を示すことができる『譲カード』を作成しました」(石蔵氏)
急増する感染者に医療資源が追いつかず、現場の医師らが治療の優先順位の判断を迫られ、回復の見込みが薄い年配者よりも若者の医療を優先する―これが、感染拡大が続くイタリアなどヨーロッパの医師が直面している「命の選択」だ。
「譲カード」には法的拘束力はないが、意思表示を明確にすることで、医療現場の負担を軽減する狙いがある。