先に挙げていない中でも、これまで吉原光夫さん、古川雄大さんなどミュージカル界からたくさんのキャストが出演していました。
これについて制作統括の土屋勝裕さんは、「古山裕一のモデルとなった古関裕而さんは、日本での本格的なミュージカルの黎明期に、数多くの舞台の音楽監督をつとめ、日本のミュージカル発展に大きく貢献しました。そんな日本ミュージカルのDNA を引き継いだ俳優の皆さんが加わって、『エール』はどんどん豪華に、ますます面白く盛り上がっていきます」とコメントしています。
このコメントから、やはり“本物”にこだわってキャスティングしていることがわかるのではないでしょうか。音楽に造詣が深い志村けんさんや古田新太さんを起用していることも含めてキャスティングにこだわっているのなら、撮影現場でのこだわりがないはずがありません。
たとえば、1日に放送された第25話で音が初めてステージに立ったシーンは、当初歌いはじめるところまでのカットだったですが、急きょ歌うところまで撮影することに変えて、オーケストラも実際に演奏し、裕一を演じる窪田さんも指揮をしたそうです。
また、さらにさかのぼれば、4月10日放送の第10話で音が亡き父を思って歌うシーン、4月15日放送の第13話で家のために音楽をあきらめた裕一が最後の演奏会に臨むシーンも、音楽の素晴らしさを感じさせるとともに視聴者の涙を誘っていました。スタッフとキャストの頭に「音楽シーンをどれだけ魅力的に見せるかが重要」という意識がしっかりあり、全力で臨んでいる様子が伝わってきます。
全体のストーリーとしては、戦争前後の激動期だけに「音楽が生きる上での力となり、ときに苦しみにもなるが、ときに救いにもなる」というシビアかつハートフルな展開が予想されています。
裕一は人々の心に寄り添う曲を生み出し、届けていくことができるのか。そして、第1話で描かれた東京オリンピックで演奏される集大成のオリンピック・マーチにどうつながっていくのか。やはり『エール』は、裕一と音の夫婦愛を楽しむ作品であるとともに、「どのように名曲たちが生まれたのか」を楽しむ作品でもあるのです。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本超のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。