コロナ禍でバジェットクラスのクルマ人気がより高まっていく
細部に違いはあれど、トヨタ・ライズとほぼ同仕様のロッキーがそれなりに売れたこと は、ダイハツにとっては朗報だろう。単なる低価格モデルであるブーンやトールではトヨタの陰に隠れるばかりで、普通車に関してはOEM専門メーカーになってしまうのではないかという感すらあった。ところが、趣味性をちょっぴり加味したクルマを出せれば、その限りではないということが明らかになったのだ。
これまで低価格帯の普通車ビジネスで気を吐いていたのはスズキである。ダイハツがそこに割って入ってきたことで、バジェットクラスの市場は今後、さらに活気づく可能性がある。
折しも新型コロナウイルスによる感染症の蔓延で経済は大打撃を受けつつある。それに伴って低所得層と高所得層の格差が一層拡大するのはもはや避けられないとの見方が有力だ。人生を楽しみたいという願望は所得の高低を問わず、皆が等しく持っているものだが、低所得層にとってはそれが次第に難しくなっていく。
経済はどんな試練からも必ず復興するものだが、どうせ頑張ってもたかが知れていると考える層の増加がもたらす強い閉塞感は、復興に相当の悪影響を及ぼす懸念がある。
そんな中、幸せ願望を安い価格で満たせる商品を出し、経済格差と人生の楽しみは別だよということを示すことができたブランドは、新たな強みを手に入れることができるだろう。クルマに限った話ではないが、そういうブランドはターゲットユーザーから強烈な親近感を持たれるものだからだ。
ダイハツはこの小さな成功体験を次につなげたいと考えているであろうし、先行して 「ジムニーシエラ」「クロスビー」などの小型SUVをラインナップしながら防衛できなかったスズキも捲土重来を期していることだろう。バジェットクラスのクルマが面白くなっていけば、それが日本の自動車マーケットの新たなけん引役になっていくかもしれない。
●文/井元康一郎(自動車ジャーナリスト)