◆20世紀のパンデミックは「第2波」の被害が甚大だった
感染症の過去の拡大事例として参考になるのは、インフルエンザのパンデミックだ。インフルエンザウイルスとコロナウイルスはいずれも、肺炎を引き起こすRNAウイルスで、変異が起きやすいとされる。どちらも飛沫感染と接触感染を主な感染経路としている。
ウイルスの感染開始時に免疫を持っている人がおらず、世界中に急速に感染が拡大した点も類似している。さらに、不顕性感染者(症状がまったく認められない感染者)からの感染が起こるとされる点も共通している。
インフルエンザのパンデミックは20世紀に3回、21世紀に1回発生している。これらのパンデミックを振り返ってみよう。
【スペイン・インフルエンザ】
1918年3月にアメリカで流行が始まった。世界のすべての地域で感染拡大の時期や波の回数が同じだったというわけではないが、大きくは1918年の春に第1波、秋に第2波、冬から翌年にかけて第3波と、3つの波が襲来した。このうち、第2波がもっとも大きく、世界中に破滅的な大惨事をもたらしたといわれている。
【アジア・インフルエンザ】
1957年に、世界中に感染が拡大した。1957年の春に第1波、11月以降に第2波がやって来た。このときも、第2波のほうが大きな被害をもたらした。感染の2つの波の間にあたる夏季にも、人々の間で感染はあったと考えられるが、その拡大は限定的だった。秋の学校再開とともに、感染が拡大したとみられている。
【香港・インフルエンザ】
1968年に、感染の拡大が始まった。1968年~1969年の第1波と、1969年~1970年の第2波が起こった。注目されるのは、地域によって第1波と第2波の被害が異なる点だ。アメリカとカナダでは、死亡者の大半が第1波で発生した。一方、ヨーロッパ、アジア諸国では、死者の多くは第2波で発生した。2つの波の間に抗原連続変異と呼ばれるウイルスの小さな変異が発生して、地域ごとに感染率が異なったことが原因との見方が出ている。