◆そもそも有名人はSNSやらなきゃいい
国公立大学卒業後、いろいろあってチューミンさんはコールセンターのアルバイトをしている。世間に知れ渡るような刑事罰を受けるならともかく、民事の訴訟でバイトがどうにかなるものでもあるまいし、万が一どうにかなっても都下のワンルームで気楽な独身暮らし、別を探せばいいだけだ。実名でSNSをやらざるを得ない有名人にはひどく不利な現状だが、その辺を話すと、チューミンさんは「うーん」と声に出した後、
「カネ目当てにステマや炎上で目立つほうが悪いし、そもそも有名人はやらなきゃいいんじゃない?」
と続けた。このセリフ、ずいぶんと昔に古参のネットマニアからも同じようなことを聞かされた覚えがある。彼曰く「匿名一般人の集まりだったネット界隈に、実名顔出しの有名人が後からカネ目当てに入ってきたんだからリスクは当然でしょ」とのことだったが、言いたいことはわからなくもない。パソ通まで遡れば違うが、基本的に日本のインターネットは匿名文化だった。むしろ「リア充」にはバカにされる世界だった。それがマネタイズとスマホの普及で広く浸透して今日に至る。ことSNSは実名こそ少数派で、有名人だろうが、リアルで力があろうが同一ツール内では平等。この根本的なネットに対する捉え方の齟齬が、両者いまだに平行線のまま続いているように思う。
「やめようとは思ってますよ。これは前から何度も言ってますが本当です。とてもつらいし時間の無駄です。SNSなんて別に好きじゃないし、インターネットにも興味ないですから」
言われてみればそうだ。チューミンさんがネットを始めたのは遅い。いまもSNS以外、というか「あの女」叩き以外で彼女がのめり込んでいるネットコンテンツはない。被害者には腹立たしいかもしれないが、中傷側からすれば誹謗中傷もコンテンツ、アプリと変わらないのかもしれない。
「日野さんの仰るとおり、嫌いな赤の他人のために自分の将来とか、時間を使うのはもったいないですし」
チューミンさんは小学校の先生を目指している。深刻な教師不足と積極的な社会人採用によって間口は広くなり、中高年の新人教師も珍しくなくなったとは言っても、新卒の若手に比べれば残された時間は少ない。勉強のできるチューミンさんでもネット中傷などにかまけている暇はないし、本人もそれをわかっている。ちなみにどんな先生になりたいのか。
「時間とか挨拶とかきっちりと守れる子どもにしてあげたいですね。あと勉強も。マナーと学力が大切だと思ってます。私は教え好きなんで、一人一人に向き合いたいです」