芸能

朝ドラ『エール』のハイブリッド演出 韓流ドラマと共通点も

NHK連続テレビ小説『エール』に出演する窪田正孝と二階堂ふみ

 ドラマは時代を映す鏡、その最先端で支持される作品には共通点が垣間見えることも珍しくない。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。

 * * *
 新型コロナの影響で撮影休止となった朝ドラ。すでに撮影ストックも尽き6月29日から再放送に入るというアナウンスがありました。感染症拡大という100年に一度の出来事だからドラマが変則的になるのも仕方がない。そして今週(56~60話)は特別企画「アナザーストーリー」、いわば本筋以外のお話を紡ぎ合わせるショートストーリー編が流れました。ただこちらはコロナの影響というより、当初からスピンオフを挿入するという計画がなされていたようです。

「アナザーストーリー」のスタートは、事故で亡くなった音(二階堂ふみ)の父親、安隆(光石研)の物語から。白装束、頭に三角形をつけお定まりの“あの世”ファッションのまま現世に蘇ってくる父。その姿に、つい笑いが出てしまう。一見するとバカバカしいコント風です。

 でも、白装束は「お約束」を可視化する仕掛け。家族には父の姿が見えるけれども他人には見えない。という設定を一瞬にして際立たせるための衣装です。見える人と見えない人がいるからこそ、そこにすれ違いや勘違いも生まれ、笑った後にはしっかりと泣きが入る。

 かつて、幼い音が父と一緒に食べたお団子。親子でもう一度味わうシーンに心を揺さぶられた人も多かったはず。幼少期がフラッシュバックされ、音は目をうるませて父に抱きつく。さすがは二階堂さんと光石さん、じんわりと沁みてくる優しいシーンでした。続けて、母(薬師丸ひろ子)の素っ頓狂だけれど温かい人柄や、夫婦で助け合って生きてきた絆も15分という短い時間の中に浮かび上がりました。

 本編の中に突如挿入されるスピンオフは、これまでの朝ドラでもありましたが、中途半端に入ってきて浮いてしまったり、ドタバタの空騒ぎになったりと違和感も。しかし今回は心が温まるポイントを外さず、各回をコンパクトにまとめあげ、伏線の回収も上手。さすが『サラリーマンNEO』の演出陣だけあるな、と唸らされました。

 そもそも『エール』というドラマは、本編においても単純なファミリードラマではありません。紋切り型に陥ることなくコミカル、シリアス、ミュージカルと異質なものを組み合わせる手腕に長けています。

 例えば音を演じる二階堂さんの個性を最大限のびのびと弾けさせ、夫・裕一を演じる窪田正孝さんの引っ込み思案かつ全力で音を支える力強さをカリカチュアして描く。スタートから2ヶ月半の間に、味わいのある不思議な夫婦像が浮かび上がってきました。

 また、ミュージカル的要素も随所に取り込み、歌が披露される場面もたびたび。喫茶店「バンブー」の中で「劇中劇」が展開されたりと演出も凝っています。シンミリあり、ドタバタあり、歌ありの複合型、いわば「ハイブリッド」なドラマ作りはもしかしたら新たな潮流なのかもしれません。

関連記事

トピックス

炊き出しボランティアのほとんどは、真面目な運営なのだが……(写真提供/イメージマート)
「昔はやんちゃだった」グループによる炊き出しボランティアに紛れ込む”不届きな輩たち” 一部で強引な資金調達を行う者や貧困ビジネスに誘うリクルーターも
NEWSポストセブン
ゆっくりとベビーカーを押す小室さん(2025年5月)
小室眞子さん“暴露や私生活の切り売りをビジネスにしない”質素な生活に米メディアが注目 親の威光に頼らず自分の道を進む姿が称賛される
女性セブン
組織改革を進める六代目山口組で最高幹部が急逝した(司忍組長。時事通信フォト)
【六代目山口組最高幹部が急逝】司忍組長がサングラスを外し厳しい表情で…暴排条例下で開かれた「厳戒態勢葬儀の全容」
NEWSポストセブン
藤浪晋太郎(左)に目をつけたのはDeNAの南場智子球団オーナー(時事通信フォト)
《藤浪晋太郎の“復活計画”が進行中》獲得決めたDeNAの南場智子球団オーナーの“勝算” DeNAのトレーニング施設『DOCK』で「科学的に再生させる方針」
週刊ポスト
手を繋いでレッドカーペットを歩いた大谷と真美子さん(時事通信)
《「ダサい」と言われた過去も》大谷翔平がレッドカーペットでイジられた“ファッションセンスの向上”「真美子さんが君をアップグレードしてくれたんだね」
NEWSポストセブン
「漫才&コント 二刀流No.1決定戦」と題したお笑い賞レース『ダブルインパクト』(番組公式HPより)
夏のお笑い賞レースがついに開催!漫才・コントの二刀流『ダブルインパクト』への期待と不安、“漫才とコントの境界線問題”は?
NEWSポストセブン
パリの歴史ある森で衝撃的な光景に遭遇した__
《パリ「ブローニュの森」の非合法売買春の実態》「この森には危険がたくさんある」南米出身のエレナ(仮名)が明かす安すぎる値段「オーラルは20ユーロ(約3400円)」
NEWSポストセブン
韓国・李在明大統領の黒い交際疑惑(時事通信フォト)
「市長の執務室で机に土足の足を乗せてふんぞり返る男性と…」韓国・李在明大統領“マフィアと交際”疑惑のツーショットが拡散 蜜月を示す複数の情報も
週刊ポスト
中核派の“ジャンヌ・ダルク”とも言われるニノミヤさん(仮称)の壮絶な半生を取材した
高校時代にレイプ被害で自主退学に追い込まれ…過去の交際男性から「顔は好きじゃない」中核派“謎の美女”が明かす人生の転換点
NEWSポストセブン
白石隆浩死刑囚
《死刑執行》座間9人殺害の白石死刑囚が語っていた「殺害せずに解放した女性」のこと 判断基準にしていたのは「金を得るための恐怖のフローチャート」
NEWSポストセブン
ゆっくりとベビーカーを押す小室さん(2025年5月)
《小室圭さんの赤ちゃん片手抱っこが話題》眞子さんとの第1子は“生後3か月未満”か 生育環境で身についたイクメンの極意「できるほうがやればいい」
NEWSポストセブン
中核派の“ジャンヌ・ダルク”とも言われるニノミヤさん(仮称)の壮絶な半生を取材した
【独占インタビュー】お嬢様学校出身、同性愛、整形400万円…過激デモに出没する中核派“謎の美女”ニノミヤさん(21)が明かす半生「若い女性を虐げる社会を変えるには政治しかない」
NEWSポストセブン