確かに、ハフィントン・ポストの記事(2020年5月5日付)によると、中国・河南省の才源中学校で15歳の男子生徒がマスクを着けてランニングをしていて死亡したケースでは、父親が〈気温は20度くらいだったはず〉と証言している。気温20度で熱中症になるとは考えにくい。
熱中症ではないとすると、高炭酸ガス血症は気温や湿度とは関係なくリスクがあるということか。
「季節に関係なく、運動や負荷の高い作業をしているときにマスクを着用することに問題がある。運動中はただでさえ酸素が欠乏しがちなのに、マスクで空気の吸入が抑えられ、かつ、二酸化炭素濃度の高い自分の呼気をまた吸い込むことで、こうした障害が起きる可能性があります。
熱中症の場合は、本人が体温の上昇に気づかず、その状態が続くことで起きますが、マスクをしていて息苦しくなった場合は、まず本人が気づいて普通ならマスクをはずします。そうして新鮮な空気を吸えば(高炭酸ガス血症は)回復します」(黒木教授)
気づかないうちに進行する熱中症ほどリスクは高くないが、マスクをして運動や負荷の高い作業をするのはやめるべきだという。加えて、炎天下でマスクをしていると暑さが倍増した感があって耐えがたいし、口周りの汗や唾液で濡れて不衛生でもある。マスク着用をやめてはいけないのか。
「そもそもマスクには(ウイルス感染の)予防効果はほとんどなく、他人にうつすのを防ぐためのもの。知らないうちに当人が感染している可能性があるのでマスクをするわけですが、咳やくしゃみが出そうになったら肘の内側で鼻と口を覆う“咳エチケット”で本来なら十分です。
ですから、屋外で人が密でなければ、マスクをする必要はないでしょう。屋内や人と接するときはマスクをしたほうがいいですが、それでも息苦しくなったら、すぐにマスクをはずしたほうがいい。コロナ予防の観点から言えば、マスクよりも手洗いのほうが大事です。食事や喫煙、お茶をしたりする前に手を洗い、マスクに触ったときも手を洗いと、手洗いの徹底が一番重要です」(黒木教授)
暑いのに無理をしてマスクをし続け、倒れてしまっては元も子もない。ただ、マスクをしようがしまいが、真夏に熱中症のリスクは依然としてあり、こまめな水分補給や塩分補給、十分な睡眠、外出時の日傘、帽子の着用などに注意すべきであることは言うまでもない。
●取材・文/清水典之(フリーライター)