村上龍、村上春樹、笙野頼子、高橋源一郎──。いずれ劣らぬビッグネームがこぞって応募した「群像」に、同時代を生きる百田も応募していた。彼もまた無名の文学青年の一人だったのだ。
若い時に文学への憧れを抱いていた青年は、しかし文学界ではなくテレビ界で活躍することになる。放送作家として、関西テレビ界の伝説的番組『探偵!ナイトスクープ』に最初期から携わった。
そこで百田は、視聴者がどこで受けて、何を求めているのかを肌感覚で知ることになる。視聴率が取れることは、何より大切な現場のリアリズムだ。
テレビはどこまでいってもチームプレーだが、一人で物語の世界を完結させることができる小説家への憧れをどこかで抱いてきたのだろう。デビュー作『永遠の0』を発表したのは2006年、50歳になってからだが、その時から市場に評価され、「売れること」を追求していく。百田は、私のインタビューにこう語った。
「売れることが一番大事。そのためにやっています。売れなくてもいいならブログに書いていたらいい。僕の本で、編集者、製本会社、書店、営業……。多くの人がご飯を食べているんです。売れなくもいいから本を出そうとは思いません」
そう考える原点は、1980年代に「群像」に応募した文学青年としての過去と、視聴率を追及した放送作家時代にあるのではないか。