国内

百田尚樹氏『永遠の0』の26年前に書いた「幻の小説」

知られざる百田氏の若かりしころとは

 累計2000万部以上の部数を誇る小説家でありながら、SNSなどでの過激な発言で注目を集める百田尚樹氏。学生時代まで遡って取材すると、百田氏が「語ってこなかった過去」が明らかになった──百田氏を5時間半以上にわたって取材したノンフィクションライター・石戸諭氏がレポートする(文中敬称略)。

* * *
 関西テレビ界を代表する名物プロデューサーで、『探偵!ナイトスクープ』などの人気番組を手がけた朝日放送(ABC)の松本修は、百田と約40年にわたる親交がある人物だ。私が近著『ルポ 百田尚樹現象 愛国ポピュリズムの現在地』の取材でインタビューすると、松本は学生時代の百田について忘れられないエピソードを教えてくれた。

 百田には、1980年当時から小説への憧れがあった。実際に1980年には講談社の文芸誌「群像」の新人文学賞に作品を応募し、1次選考を通過している。朝日放送の近くにあった「ホテルプラザ」のコーヒーショップで、松本は百田の応募作「古本屋」を読んでいる。

 作品の欠点をいくつか指摘すると、激昂したという。しかし、松本は意に介さずこう思っていた。

「小説の才能は間違いなくある。ずっと書き続けたほうがいい」

 百田が応募した1980年の受賞作は長谷川卓の「昼と夜」だったが、1次予選通過者として「群像」には、実際に「百田尚樹」の名前と作品名が掲載されている。小説部門の応募総数は1288篇であり、当時の最終選考委員は吉行淳之介、島尾敏雄、丸谷才一といった面々が名を連ねていた。

 当時の群像新人文学賞は、綺羅星の如き才能を生み出した文学界の一大拠点だった。1976年に村上龍が受賞作「限りなく透明に近いブルー」で文壇に衝撃を与え、百田が応募する前年1979年の受賞作は、村上春樹「風の歌を聴け」である。

 1981年には笙野頼子が「極楽」で受賞し、同年の長編小説部門は高橋源一郎が「さようなら、ギャングたち」でその名を刻んでいる。ちなみに1980年の評論部門には、法政大学でも教鞭を執った文芸批評家の川村湊、推理小説評論で名高い野崎六助の名前があった。

関連キーワード

関連記事

トピックス

11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(現場写真/読者提供)
【“分厚い黒ジャケット男” の映像入手】「AED持ってきて!」2人死亡・足立暴走男が犯行直前に見せた“奇妙な”行動
NEWSポストセブン
10月22日、殺人未遂の疑いで東京都練馬区の国家公務員・大津陽一郎容疑者(43)が逮捕された(時事通信フォト/共同通信)
《赤坂ライブハウス刺傷》「2~3日帰らないときもあったみたいだけど…」家族思いの妻子もち自衛官がなぜ”待ち伏せ犯行”…、親族が語る容疑者の人物像とは
NEWSポストセブン
ミセス・若井(左、Xより)との“通い愛”を報じられたNiziUのNINA(右、Instagramより)
《ミセス若井と“通い愛”》「嫌なことや、聞きたくないことも入ってきた」NiziU・NINAが涙ながらに吐露した“苦悩”、前向きに披露した「きっかけになったギター演奏」
NEWSポストセブン
「ラオ・シルク・レジデンス」を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
「華やかさと品の良さが絶妙」愛子さま、淡いラベンダーのワンピにピンクのボレロでフェミニンなコーデ
NEWSポストセブン
クマ被害で亡くなった笹崎勝巳さん(左・撮影/山口比佐夫、右・AFP=時事)
《笹崎勝巳レフェリー追悼》プロレス仲間たちと家族で送った葬儀「奥さんやお子さんも気丈に対応されていました」、クマ襲撃の現場となった温泉施設は営業再開
NEWSポストセブン
役者でタレントの山口良一さん
《笑福亭笑瓶さんらいなくなりリポーターが2人に激減》30年以上続く長寿番組『噂の!東京マガジン』存続危機を乗り越えた“楽屋会議”「全員でBSに行きましょう」
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《いろんな裏切りもありました…》前田健太投手の妻・早穂夫人が明かした「交渉に同席」、氷室京介、B’z松本孝弘の妻との華麗なる交友関係
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《1日で1000人以上と関係を持った》金髪美女インフルエンサーが予告した過激ファンサービス… “唾液の入った大量の小瓶”を配るプランも【オーストラリアで抗議活動】
NEWSポストセブン
日本全国でこれまでにない勢いでクマの出没が増えている
《猟友会にも寄せられるクレーム》罠にかかった凶暴なクマの映像に「歯や爪が悪くなってかわいそう」と…クレームに悩む高齢ベテランハンターの“嘆き”とは
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン