国内

百田尚樹氏『ナイトスクープ』で培った「小説の原点」

関西の伝説的番組に携わってきた百田氏が考えることとは

 関西の人気番組『探偵!ナイトスクープ』は、コロナ禍の中で新規収録が難しい中でも、視聴者からの「もう一度見たい!」という要望に応えて過去の名作を放送していた。この番組を“原点”とするのが、ベストセラーを連発する一方、過激な発言で炎上を繰り返す小説家・百田尚樹氏だ。彼が20代の頃から構成作家として携わった『ナイトスクープ』で培ったものは、小説にも活きているという。百田氏を5時間半以上にわたって取材したノンフィクションライターの石戸諭氏がレポートする(文中敬称略)。

 * * *
 1990年代の全盛期には関西で視聴率30%を誇り、今なお続く『探偵!ナイトスクープ』。初代「局長」はあの上岡龍太郎であり、西田敏行、松本人志と局長を変えながら、関西では誰もが知っているお化け番組として君臨している。

 一般の視聴者から寄せられた疑問を、「探偵」に扮したタレントたちが解決する。番組を要約するとたったこれだけなのだが、素人の依頼を涙あり笑いありに仕立て、視聴者を熱狂させたのが、チーフ構成作家に抜擢された百田尚樹だった。

 私は著書『ルポ 百田尚樹現象 愛国ポピュリズムの現在地』(小学館)の中で、『ナイトスクープ』を手がけた朝日放送(ABC)の名物プロデューサー・松本修に、構成作家として百田を迎えた経緯を聞いた。松本が、『ナイトスクープ』の原案となる企画を考えていた時、たまたま近くのホテルプラザにいた百田に声をかけると、彼は喜んで参加すると快諾したという。当時の百田は、同志社大学を中退して定職に就いていなかった。

 松本は『ナイトスクープ』を手がける前に、大阪発で全国的な人気を誇った素人参加番組『ラブアタック』のディレクターも務めており、同志社大時代の百田はこの番組で最も人気を博した常連出演者だった。

 松本は百田について、何も教えなくてもテレビを知っていた「天才」と語る。彼なら新しいことができる。百田は松本の期待に応え、エース構成作家として業界にその名を知られるようになった。

 伝説の回として名高い1993年8月6日の「大阪弁講座」で、百田は「(あの犬)チャウチャウ、ちゃうんちゃう」を地方から大阪に集った若者にレクチャーすれば、面白いと提案し、そのアイディアはそのまま採用された。松本によれば、今でも大阪弁の定番ギャグの一つだが、源流はこの回にあるという。

 もう一つ、この番組のスタンスとして大切にしていたのが一般人である視聴者を絶対にバカにしないということだ。松本も百田も視聴者の感性を信じ、安易な素人いじりだけで笑いをとることをよしとしない。関西のテレビ界に流れる、リアリズム、視聴者が面白いというものは数字に跳ね返り、かつ正しいということを彼らは信じている。

 このスタンスは、後年に小説家としてデビューして以降の百田にも引き継がれていくことになる。『永遠の0』が刊行された2006年から、百田氏がTwitterを始めた2010年頃までは、同作には「右傾化」「戦争賛美」という批判は出ていなかった。

関連キーワード

関連記事

トピックス

司組長が到着した。傘をさすのは竹内照明・弘道会会長だ
「110年の山口組の歴史に汚点を残すのでは…」山口組・司忍組長、竹内照明若頭が狙う“総本部奪還作戦”【警察は「壊滅まで解除はない」と強硬姿勢】
NEWSポストセブン
バスツアーを完遂したイボニー・ブルー(インスタグラムより)
《新入生をターゲットに…》「60人くらいと寝た」金髪美人インフルエンサー(26)、イギリスの大学めぐるバスツアーの海外進出に意欲
NEWSポストセブン
横山剣氏(左)と作曲家・村井邦彦氏のスペシャル対談
《スペシャル対談・横山剣×村井邦彦》「荒井由実との出会い」「名盤『ひこうき雲』で起きた奇跡的な偶然」…現代日本音楽史のVIPが明かす至極のエピソード
週刊ポスト
大谷が購入したハワイの別荘の広告が消えた(共同通信)
【ハワイ別荘・泥沼訴訟に新展開】「大谷翔平があんたを訴えるぞ!と脅しを…」原告女性が「代理人・バレロ氏の横暴」を主張、「真美子さんと愛娘の存在」で変化か
NEWSポストセブン
小林夢果、川崎春花、阿部未悠
トリプルボギー不倫騒動のシード権争いに明暗 シーズン終盤で阿部未悠のみが圏内、川崎春花と小林夢果に残された希望は“一発逆転優勝”
週刊ポスト
ハワイ島の高級住宅開発を巡る訴訟で提訴された大谷翔平(時事通信フォト)
《テレビをつけたら大谷翔平》年間150億円…高騰し続ける大谷のCMスポンサー料、国内外で狙われる「真美子さんCM出演」の現実度
NEWSポストセブン
「第72回日本伝統工芸展京都展」を視察された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年10月10日、撮影/JMPA)
《京都ではんなりファッション》佳子さま、シンプルなアイボリーのセットアップに華やかさをプラス 和柄のスカーフは室町時代から続く京都の老舗ブランド
NEWSポストセブン
兵庫県宝塚市で親族4人がボーガンで殺傷された事件の公判が神戸地裁で開かれた(右・時事通信)
「弟の死体で引きつけて…」祖母・母・弟をクロスボウで撃ち殺した野津英滉被告(28)、母親の遺体をリビングに引きずった「残忍すぎる理由」【公判詳報】
NEWSポストセブン
焼酎とウイスキーはロックかストレートのみで飲むスタイル
《松本の不動産王として悠々自適》「銃弾5発を浴びて生還」テコンドー協会“最強のボス”金原昇氏が語る壮絶半生と知られざる教育者の素顔
NEWSポストセブン
部下と“ラブホ密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(左・時事通信フォト)
《黒縁メガネで笑顔を浮かべ…“ラブホ通い詰め動画”が存在》前橋市長の「釈明会見」に止まぬ困惑と批判の声、市関係者は「動画を見た人は彼女の説明に違和感を持っている」
NEWSポストセブン
バイプレーヤーとして存在感を増している俳優・黒田大輔さん
《⼥⼦レスラー役の⼥優さんを泣かせてしまった…》バイプレーヤー・黒田大輔に出演依頼が絶えない理由、明かした俳優人生で「一番悩んだ役」
NEWSポストセブン
国民スポーツ大会の総合閉会式に出席された佳子さま(10月8日撮影、共同通信社)
《“クッキリ服”に心配の声》佳子さまの“際立ちファッション”をモード誌スタイリストが解説「由緒あるブランドをフレッシュに着こなして」
NEWSポストセブン