ライフ

喫煙者であることを隠す認知症女性 昭和女の恥じらいか?

喫煙者であることを隠す理由とは?(写真/F1online/アフロ)

 認知症の母(85才)を支える立場の『女性セブン』N記者(56才・女性)が、介護の日々を綴る。今回は、母の喫煙に関するエピソードだ。

 * * *
 母は昔からたばこを吸っている。別に悪いことではないと思うが、サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)に来てから、母はそれをひた隠しにしているのだ。昭和女の恥じらいか、プライドか。ところがある日、思いがけないことで母の“こっそり喫煙”が露見した!!

◆「吸ったことない!」と頑なに否定する母

 私が子供の頃、居間のテーブルの真ん中には重厚な鋳物の灰皿が置いてあった。父も母もそこで、新聞を読んだりテレビを見たりしながら、たばこを吸っていた。食後の一服は実においしそうに煙をくゆらせていて、たばこは家族団らんの象徴だった。

 母の喫煙にはもう1つ理由があった。快便の秘訣だというのだ。「朝刊とたばこがあればスルンと出るのよ」と、ニヤリと笑った母の顔も、子供心に妙に深く刻まれている。

 だから6年前、母がひとりになってサ高住に転居したときも、荷物の中に思い出の灰皿を忘れずに入れた。愛煙家にとってたばこは、大事な心のよりどころだと思ったのだ。

 ところが転居して間もない頃、サ高住の職員さんからこんな注意があった。

「シンクに吸い殻が捨ててありました。おたばこ、吸われるんですね。喫煙は構わないのですが、火の始末だけは気をつけてください。ちゃんと灰皿を使ってくださいね」

 母はとぼけて答えず、私がテーブルの真ん中に置いたはずの灰皿も、棚の奥の方にしまい込まれていた。実は数日前、クローゼット内の下着の間に、たばこの箱が押し込まれているのも偶然見つけていた。

 そういえば長寿健診の問診で、母が「たばこ? 吸ったことはありません」などとうそぶくので、後からこっそり事実を報告したこともあった。

“大事な物を隠す”のは、認知症によくある行動らしい。でも昔、あんなに大っぴらに楽しんでいた喫煙がいまさら恥ずかしいのか。複雑な女心だ。

「たばこ吸っていいんだよ。ほら灰皿も持ってきたんだから。隠さなくていいよ」

 母はさらにそっぽを向いた。

「知らない! 吸ったことなんかないわよ」

◆喫煙がバレて思わず告白

 それからも母の喫煙隠ぺい工作はやまなかった。屈強の決意と執念である。

 しかたなく時々灰皿を目につくところに出すものの、“吸っていない”ことを前提に、私も話を合わせることにした。

 そんな1年半が過ぎた頃、初めてエアコンのクリーニングを頼んだ。調理もしない老人のひとり暮らしとはいえ、カビなどが気になったからだ。

 来てくれたのは若い男性。いつになくご機嫌な母と並んで、彼の仕事ぶりを眺めた。

「外側はあまり汚れてないっすね」と、話し方もフランク。

「あれ、中は結構汚れてるな…たばこ、吸ってます?」 

 思いがけないところから、ズバリ切り込まれたものだ。

「ええまあ」と私が適当に受け流そうとすると、横から、「便秘の薬なのよ」と母がまたズバリと言い返した。

「吸うと、出るのよ(笑い)」

 いったいどういう風の吹き回しかと思ったが、若い彼も爆笑してくれていた。そしてやはり吸っていたことが判明。

 愉快なひとときだった。

 あれから1年おきのエアコンクリーニングで、昨年、ついに喫煙の汚れが出なくなった。ちょっと寂しい。

※女性セブン2020年7月23日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

デコピンを抱えて試合を観戦する真美子さん(時事通信フォト)
《真美子さんが“晴れ舞台”に選んだハイブラワンピ》大谷翔平、MVP受賞を見届けた“TPOわきまえファッション”【デコピンコーデが話題】
NEWSポストセブン
【白鵬氏が九州場所に姿を見せるのか】元弟子の草野が「義ノ富士」に改名し、「鵬」よりも「富士」を選んだことに危機感を抱いた可能性 「協会幹部は朝青龍の前例もあるだけにピリピリムード」と関係者
【白鵬氏が九州場所に姿を見せるのか】元弟子の草野が「義ノ富士」に改名し、「鵬」よりも「富士」を選んだことに危機感を抱いた可能性 「協会幹部は朝青龍の前例もあるだけにピリピリムード」と関係者
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組・司忍組長2月引退》“竹内七代目”誕生の分岐点は「司組長の誕生日」か 抗争終結宣言後も飛び交う「情報戦」 
NEWSポストセブン
部下と“ホテル密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(時事通信フォト/目撃者提供)
《前橋・小川市長が出直し選挙での「出馬」を明言》「ベッドは使ってはいないですけど…」「これは許していただきたい」市長が市民対話会で釈明、市議らは辞職を勧告も 
NEWSポストセブン
活動を再開する河下楽
《独占告白》元関西ジュニア・河下楽、アルバイト掛け持ち生活のなか活動再開へ…退所きっかけとなった騒動については「本当に申し訳ないです」
NEWSポストセブン
ハワイ別荘の裁判が長期化している
《MVP受賞のウラで》大谷翔平、ハワイ別荘泥沼訴訟は長期化か…“真美子さんの誕生日直前に審問”が決定、大谷側は「カウンター訴訟」可能性を明記
NEWSポストセブン
11月1日、学習院大学の学園祭に足を運ばれた愛子さま(時事通信フォト)
《ひっきりなしにイケメンたちが》愛子さま、スマホとパンフを手にテンション爆アゲ…母校の学祭で“メンズアイドル”のパフォーマンスをご観覧
NEWSポストセブン
維新に新たな公金還流疑惑(左から吉村洋文・代表、藤田文武・共同代表/時事通信フォト)
【スクープ!新たな公金還流疑惑】藤田文武・共同代表ほか「維新の会」議員が党広報局長の“身内のデザイン会社”に約948万円を支出、うち約310万円が公金 党本部は「還流にはあたらない」
NEWSポストセブン
部下と“ラブホ密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(左・時事通信フォト)
《ほっそりスタイルに》“ラブホ通い詰め”報道の前橋・小川晶市長のSNSに“異変”…支援団体幹部は「俺はこれから逆襲すべきだと思ってる」
NEWSポストセブン
東京・国立駅
《積水10億円解体マンションがついに更地に》現場責任者が“涙ながらの謝罪行脚” 解体の裏側と住民たちの本音「いつできるんだろうね」と楽しみにしていたくらい
NEWSポストセブン
今季のナ・リーグ最優秀選手(MVP)に満票で選出され史上初の快挙を成し遂げた大谷翔平、妻の真美子さん(時事通信フォト)
《なぜ真美子さんにキスしないのか》大谷翔平、MVP受賞の瞬間に見せた動きに海外ファンが違和感を持つ理由【海外メディアが指摘】
NEWSポストセブン
柄本時生と前妻・入来茉里(左/公式YouTubeチャンネルより、右/Instagramより)
《さとうほなみと再婚》前妻・入来茉里は離婚後に卵子凍結を公表…柄本時生の活躍の裏で抱えていた“複雑な感情” 久々のグラビア挑戦の背景
NEWSポストセブン