ネットと慣れ親しみながら成長し、その怖さも承知していたはずだった
叱ってくれる大人がいるX氏は、幸運だろう。トラブルが起きたときに間違いを指摘してくれるだけでなく、回復の助けにもなる。社会人としての経験を積んできた大人である親からは、謝罪の仕方などを教わり、和解内容の相談ができる弁護士も紹介してもらった。そして、自分が起こしたトラブルについての取材を匿名で受けることにした。
「もともと取材は受けるべきだと思っていましたし、そうしないと和解が難しいかもしれないとも思っていました。そもそも、自分がゲームをしているときに嫌な思いもしたし、いわゆる『荒らし』行為やそれをする人たちのことは好きじゃありません。意味がわからない発言されたり、人狼ジャッジメントは一人でもメンバーが欠けると面倒な事になるのに待てない人がいたり。そういう争いをよく見かけましたが、不愉快でした。どうせゲームをするなら楽しくやりたいと思っています」
今もゲームそのものは好きで、YouTubeのゲーム実況を見るのは日課だというX氏。6月末には、運営会社へ提出した「アカウント再登録方法を掲載したお詫び」と題した謝罪文が公表された。今後は、適切な振る舞い方でゲームやネットと付き合いながら、親に負担してもらう賠償金を少しでも早く返済するつもりだ。
X氏のネット履歴を簡単に見直すと、決してネットに慣れていないわけではなく、どちらかというと上手に要領よく使いこなしてきたほうだろう。ブログを始めてつくったのは中学生のときで、スマホは高校生のときから使ってきた。高校時代には同級生がトラブルを起こしたので、友だちどうしで承知している悪ノリを、そのままネットに出してはいけないことも身に沁みている。人からはゲームばかりしているように見えたかもしれないが、決して勉学にも手を抜かずそれなりの成績をおさめてきた。SNSはニュースやトレンドを知るために登録だけで発信はせず、心身共に負担が大きかった飲食店アルバイトの代わりにアフィリエイトブログを運営している。
これだけネット歴を積み重ねて使いこなしてきても、トラブルの加害者になってしまうことがあるのだ。この種の事件が報じられると大半の人は他人事だと思うだろうが、実は誰でも加害者になりうることを彼の存在は示している。そこで起きているネット上のトラブルは、明日はあなたの問題になるかもしれない。それを忘れないことが、一番の予防策なのだろう。
●取材・文/横森綾