AさんとBさんは発熱したので検査を受けることができたが、無症状の参加者はAさん、Bさんを起点にすると接触は4日前になり、濃厚接触者には当たらない。参加者としては気が気ではないが、仕組みの壁を超えることはできなかった。
「結局、X氏に陽性判定が出ていない以上、濃厚接触者として認められず、検査の対象にもならないというんです。保健所の担当の方も各方面に働きかけていただくなど、手を尽くしていただいたんですが……。最後はそれぞれ自費でPCR検査を受けました」
幸い他の参加者の検査結果はみな陰性だったというが、X氏の対面に座っていた参加者などは、検査結果が出るまで気が気ではなかったろうし、いまなお自己隔離中だという。
感染経路の起点となる人であっても、検査を受けなければ陽性とは認定されず、経路の聞き取りもできない。つまりそのルートはまるごと感染経路不明となってしまう。
“夜の街”クラスタにおける未成年者や、16日に発表された青森県の警察官の例もそうだが、本人が検査を拒否できる現在の仕組みでは、陽性者を100%掘り起こすのは難しく、市中感染に対する不安は尽きない。それでも実際の感染者を含む複数名の申し立てなど、一定の事実を要件に感染経路を追うための「認定陽性者」制度などを確立できないものか。次の波のためにも、感染ルートの追跡力を強化しておくことは、流行を押さえ込む役には立つはずだ。
上記の例からもわかるように、現場レベルでは市民からの要望に、真摯に対応している保健所職員も多い。そうした現場の板挟み感を解消し、より効果的な対策を打ち出すため、国政や省庁レベルで”仕組みの壁”を取り払う施策の立案・実行が必要だ。
日本人がCOVID-19という未知なる感染症に対峙してまだ半年。いまだ「4日連続で熱が出てから電話して」と従来のガイドラインに拘泥する保健所もあるというし、テレワークを取りやめた途端、「原則全社員出社」という極端な舵を切る企業もある。すべてのルール、すべての施策は、最適化されるべく上書きされ続けなければならない。そして歩みを前進させるのは、いま現場で起きている事実にほかならないのだ。