郷原氏(左)も官僚や記者クラブといった組織にさまざまな意見を持つ

郷原:特捜部の捜査というのは、ボート型フォーメーションなんです。ボート競技のボートです。(最後尾で舵を取りながら漕ぎ手に指示を出す)コックスがいて掛け声をかけ、そのコックスの掛け声で必死に漕いでるだけで、どっちに向かって進んでいるのかすら分からない。上から言われた通りのストーリー通りに調書を取る、それが特捜部の所属検事なんです。そういう軍隊組織の形は、メディアとも似てますよね。メディアも上に言われたものを取ってくるだけで、上に言われたことを考えずにやるということは検察と同じ。捜査も取材も、個人が創意工夫して頭を使うから真実に迫れるし、いろんなことが明らかになる。それなのに特捜部は、先にストーリーを上の人間が決めてしまうので、新たな発見はない。

長谷川:新聞記者の場合は、支局に入社したときからデスクに徹底的に、さっき話したような取材のイロハを叩き込まれる。そのうち、俺は考えちゃいけないんだ、と思うようになる。検察も同じなんですね。

郷原:そうしたビヘイビア(振る舞い)が、身について来るんですね。検事の場合、任官してしばらくは、小さな事件でも自分でやるので、自分で考えて、自分で決める。ところが、特捜部のような大きな事件をやるときは違う。そこには個人の考えというのはほとんど関係ない。そこに違和感を覚える人間はいるんですが、その価値観を受け入れることができる人間が長く特捜部にいて主任、副部長、部長に出世していく。

長谷川:私もそういう中で、やってきました。でも、新聞の場合は論説委員室というのがあって、論説委員がいる。これはちょっと違って、一応、社内では自分の意見を述べるという建前になっている。まあ、本当はそうはなっていないんだけれど、自分の考えであるらしきものを会議でプレゼンして、それが採用されれば、それを社の意見として社説に書く。私はたまたま46歳で論説委員になってしまって、そういう仕事をやり始めたわけですけれど、当時は、実は財務省お気に入りの記者で、財政審の委員になっていたりしたんで、さっき言った「対外説明」の紙ももらっていたんです。これさえ持っていれば財務省に取材する必要なんてない、全部書いてあるから。自分で言うのもなんですけど、私は「スーパー特A級のポチ記者」でした。

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