1月2日の「渋谷109」初売りに大勢の若い女性たちが殺到する様子は正月におなじみの景色だった(時事通信フォト)
筆者も、セシルの担当者に商品のページへの出し方をめぐり、相当な嫌味を言われ「もうお宅には貸さない」と言われた過去がある。たかだかギャルブランド、高級ブランドじゃあるまいし……と思った事もあった。ただ、超一流のブランドではないとしても、セクシー系、キュート系など若い女性に人気のジャンルをしっかり抑え「ギャル=セシル」というブランドイメージを確立させ保とうとする姿勢は一貫していたし、その戦略は成功していたのだ。
1990年代からのギャルブームは2000年代も続き、ファッションもセクシーカジュアル路線が引き続き人気を集めていた。ギャルファッションのシーンがまだまだ好調だった2007年に、異変はすでに現れていた。「セシル」のライバルブランドで広報担当を務めていた宮崎由佳子さん(仮名・30代)はこの時、ある傾向を敏感に察知していた。
「当時、最初の韓流ブームの真っ只中。物価もまだ安かったし、ファッション関係者やモデルが我先にと韓国へ遊びに行っていました。私もソウルに遊びに行ったのですが、そこで本当に腹立たしい思いをしたんです」(宮崎さん)
宮崎さんは、自社ブランドのアイテムが、ソウルの観光客向け衣料品店で定価の半額ほどで販売されているのを目撃したのである。よく見ると、タグは全然違うメーカーのものが付け替えてあるが、商品は間違いなく本物。
「日本の業者にパターンを送ると、サンプルが出来上がるまでに2週間、商品化には1ヶ月かかる事もあった。韓国だと、早ければ翌日にはサンプルが出来上がり、1週間で商品化。しかも日本の三分の一の価格。そんな訳で、韓国の業者に頼りきりでした。でも、その韓国の工場で偽物が作られるようになったんです」(宮崎さん)
日本の自動車・二輪車メーカーも、かつて原付バイクの製造を中国の業者に任せたところ、数年後にはその工場で作られた偽物が登場し、日本に輸入されたことがあった。生産拠点を海外に置く産業なら、大なり小なり似たようなことを経験してきているが、これらの場合は、昼間は本物を作っている工場で、同じ生産ラインを使って夜に偽物が作られていた、という点では、かなり悪質だ。もし偽物を勝手に製造されてしまったのなら、本来はその時点で契約を打ち切り、法的機関へ訴えたり損害賠償を求めるべきだろう。ところが、宮崎さんの会社の上司は「安く作れていたのだから仕方がない」と静観した。
「ソウルのファッション市場は、日本ブランドのまがい物であふれていました。いつの間にかそれが『韓流ファッション』と呼ばれるようになり、新大久保の雑貨店で売られたりしていました。化粧品も同じで、最初に日本ブランドコスメの偽物が作られ、そのうち中身は日本の偽コスメ、パッケージは韓国のオリジナルブランドという商品が逆輸入される事態になった」(宮崎さん)