珍しい収集家もやってくる。絶版になった保育社のカラーブックス。出点数約九百冊のうち未収集は二百冊を切った。こういう客は、店主として大事にしたい。庭師や僧侶もやってくる。時には小学生の子供が来て『フグはなぜ毒で死なないか』を手に取る。思わず親切に声を掛ける。

 高齢化社会になって本を整理する人が増えた。長年の愛書を手放す老人たちの悲喜こもごもが泣かせる。「蔵書一代」という。自分の本は、次の世代にまで持越さず自分で整理しなければならない。本が次第に読まれなくなった時代。売上げゼロの日が年に何日もある。つい店を閉じようかと弱気になると奥さんは言う。「古本屋をやめたら、ボケるから続けたら。費用はなんとかなるよ」。頼もしい。

※週刊ポスト2020年7月31日・8月7日号

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