岡田監督の「赤く充血した目」
2年前のあの日、履正社の岡田龍生監督の目はまるで劇画のキャラクターのように血走り、泣いているわけでもないのに両方の目は真っ赤に充血していた。2018年7月27日の大阪大会準決勝でのことだ。大阪桐蔭に1点をリードして9回を迎え、最大のライバルをあとアウトひとつまで追い詰めながら、逆転負けを喫した。
思い返せば2015年夏の大阪大会で、大阪桐蔭と1回戦で対戦して敗れた日も同じような目をしていた。それでいて「相手の方が一枚も二枚も上手だった」と殊勝なコメントを残していた。
岡田監督は1999年夏の大阪大会で大阪桐蔭に13対12で勝利して以来、夏の大阪大会に限っては足かけ21年間も大阪桐蔭戦で勝利がなく、11連敗を喫していた。ここ数年、岡田監督にインタビューする度にいつもこの不名誉な記録の話題となり、同じ回答を返されてきた。
「毎年、チーム(メンバー)は異なりますから、私自身は気にしていません」
とても本心とは思えなかった。
とりわけ2010年代に入ってからは、同じ大阪で、ともに日本を代表する強豪私立として並び立ってきた。にもかかわらず、夏の直接対決でこれほど苦渋を舐め続けていることは、勝負師としてとても受け入れがたいはずだ。さらに夏の大会でライバルに勝てないという評判は、中学生のスカウティングにだって影響があるだろう。
誰より岡田監督の元に集まってきた選手たちがこの記録を気にしており、望ましくないジンクスを振り払おうとしては、その度に打ち破れてきた。
ナインを勝たせてあげられなかった自責の念を押し殺す時、あるいは悔しさの度合いが大きければ大きいほど、岡田監督の目は充血するのではないか。私はそう捉えてきた。
今年の独自大会に、履正社は3年生部員だけで臨んでいた。対する大阪桐蔭は30人の登録メンバーに2年生が8人入り、いつもの夏と同じようにベストメンバーで臨んだ。
試合は2回表に大阪桐蔭が昨夏の甲子園の胴上げ投手・岩崎峻典から1点を先制。なおも1死満塁のチャンスとなったが、一本が出ず。直後の2回裏には履正社が攻勢に転じ、無死満塁から走者一掃の適時二塁打が出て逆転、この回に計4点を挙げた。
その後も履正社が得点を重ね、大阪桐蔭はコールド負けを免れるのが精一杯。履正社が9対3と大差でライバル対決を制した。
「2回の表に、満塁で大阪桐蔭さんに長打が出ていたら逆の立場だったと思います。岩崎が粘り強く投げてくれました。昨秋の大会決勝で大阪桐蔭さんに負けてから、どうにか大阪桐蔭さんを倒そうとばかり生徒たちは考えていた。彼らの力で勝つことができたと思います」