学歴への引け目を読書量で補い、「その時々の読書で感銘を受けた言葉」を書き留めてきた大学ノートには、「生活をenjoyしながら、しかも、自分を豊富にしながら事業を豊富にしていくのが、ほんとうの合理主義」と書かれてあったという。
相談役に退いてからも、松下家が経営権を握ろうとしたとき、「今の松下電器はおかしくなっている」と公然と批判し、山下流の経営哲学を貫いた。世襲は防いだものの、しかし山下亡きあとの松下電器は迷走を続けることになる。その遠因もまた、山下にあった。読ませどころ満載である。
※週刊ポスト2020年8月28日号