病院などが保険診療を行った際に請求する「診療報酬」と似たような仕組みで、整骨院や接骨院はケガについて施術を行うと自治体などへ保険の「療養費」を請求できる。性善説で運用されていたこの制度を悪用し、ケガをしていない、もしくはまったくその整骨院にはかかっていない日時なのに「療養費」を架空請求して公金をだまし取る事件が相次いだ。この不正請求のためには、実在の人物の保険証が必要なので、それを集める反社会系のグループが存在していた。
不正請求のための保険証情報が欲しい彼らは、「名義貸し」など簡単な方法により小遣いが得られる、もしくは、グレーではあるものの「代行業者」を使って盲点をついた方法で合法的に現金を得る、などといった口コミを、ウェブサイトやSNS上でアピールし、さかんに誘い文句を送り続けた。結局は、それに騙される人々を食い物にする手法である。いや、食い物にされた人々も、純然たる被害者とは言い難く、むしろ加害者に近い。
それでは、感染症拡大による営業自粛等により特に大きな影響を受けている中堅・中小企業、小規模事業者、フリーランスを含む個人事業者が対象の「持続化給付金」を口実とした今回の事案は、具体的にはどんな仕組みなのか。
「不労所得が得られる、簡単なアルバイトといったSNS上の誘い文句に乗ってきたユーザーに『持続化給付金がもらえる方法がある』と紹介するパターンが一番多かったようです」
こう話すのは、2000年頃から2010年代前半までリフォーム詐欺や特殊詐欺に関与し、検挙された経験を持つK氏(40代)。かつての同僚や部下を通じて、今起きている最新の詐欺事情にも詳しい。
「そのような書き込みに反応してくるくらいだから、相当に食い詰めているか、頭が悪いかのどちらか。特殊詐欺やってた連中も、コロナで社会が動かないから詐欺がやりづらい。多少は危険だけど、一般人を巻き込んで大胆な方法に出たんだと思います」(K氏)
オレオレ詐欺などの特殊詐欺も、社会が正常な状態だからこそできるもの。非常事態下では詐欺も思うようにいかず、新たに考え出されたのが「持続化給付金詐欺」であるという。この詐欺、特殊詐欺など一般人から金を騙し取るものではなく、国から金を詐取するものだ。一般人からの詐欺は被害者が告訴しないと事件になりづらいが、公金を詐取するとなれば、問答無用で即、刑事事件だ。逃げられる確率が低くなる。本来、詐欺師とは逃げ道をしっかり確保してからことに及ぶ慎重な性質を持つ。しかし、コロナ禍は詐欺師をも食い詰めさせた為に、多少危険な方法でも、構わずやってくるのだろうというのがK氏の見方だ。
「ターゲットには、手数料を引いた数十万円がバックされる、と説明。ターゲットを個人事業者に仕立て上げ、架空の確定申告をさせた上で、本年度の売り上げが落ちた、という虚偽の書類を書かせるのです」(K氏)