信介と寛、両祖父の邂逅

 寛は政界で同じ非推薦の三木武夫(元首相)や前述の赤城らと行動をともにしたが、戦時下の国会では非推薦議員は質問や発言の機会をほとんど与えられなかった。

 その頃、東條内閣の商工大臣として飛ぶ鳥を落す勢いだったのが安倍のもう一人の祖父・岸信介である。岸は寛より2歳年下だ。政治的立場が正反対だった寛と岸は、戦況が悪化していた1944年秋に会っている。

 その頃、東條と政治路線で対立した岸は内閣改造を失敗させて東條を退陣に追い込むと、野に下って「防長尊攘同志会」を組織し、地元の山口県内を遊説して回っていた。その途中で、病気療養中の寛を見舞ったのだ。商工次官、大臣を務めた岸と、同じ山口県選出の代議士で衆院商工省委員だった寛は、以前から顔見知りだったとされる。

 ただし、このとき2人が意気投合したという記録はない。前掲書『いざや承け継がなん』には同席者のこんな証言が記されている。

〈お見舞いにすぎなかったような気がする。その時はまさか、寛の息子と岸の娘が一緒になると思わなかった〉

 では、岸の目には、寛はどんな政治家に映っていたのだろうか。後年、岸は回想録『岸信介の回想』で寛についてこう記している。

〈この安倍寛というのは“今松陰”と称せられた気骨のある人で、ただ結核で五十くらいで亡くなった。とにかく三木、赤城は安倍の子分だ。だから三木武夫が総理のときもわざわざ安倍の親父の寛の墓参りまでしてくれたよ〉

関連キーワード

関連記事

トピックス

米利休氏のTikTok「保証年収15万円」
東大卒でも〈年収15万円〉…廃業寸前ギリギリ米農家のリアルとは《寄せられた「月収ではなくて?」「もっとマシなウソをつけ」の声に反論》
NEWSポストセブン
埼玉では歩かずに立ち止まることを義務づける条例まで施行されたエスカレーター…トラブルが起きやすい事情とは(時事通信フォト)
万博で再燃の「エスカレーター片側空け」問題から何を学ぶか
NEWSポストセブン
趣里と父親である水谷豊
《趣里が結婚発表へ》父の水谷豊は“一切干渉しない”スタンス、愛情溢れる娘と設立した「新会社」の存在
NEWSポストセブン
SNS上で「ドバイ案件」が大騒動になっている(時事通信フォト)
《ドバイ“ヤギ案件”騒動の背景》美女や関係者が証言する「砂漠のテントで女性10人と性的パーティー」「5万米ドルで歯を抜かれたり、殴られたり」
NEWSポストセブン
事業仕分けで蓮舫行政刷新担当大臣(当時)と親しげに会話する玉木氏(2010年10月撮影:小川裕夫)
《キョロ充からリア充へ?》玉木雄一郎代表、国民民主党躍進の背景に「なぜか目立つところにいる天性の才能」
NEWSポストセブン
“赤西軍団”と呼ばれる同年代グループ(2024年10月撮影)
《赤西仁と広瀬アリスの交際》2人を結びつけた“軍団”の結束「飲み友の山田孝之、松本潤が共通の知人」出会って3か月でペアリングの意気投合ぶり
NEWSポストセブン
米利休氏とじいちゃん(米利休氏が立ち上げたブランド「利休宝園」サイトより)
「続ければ続けるほど赤字」とわかっていても“1998年生まれ東大卒”が“じいちゃんの赤字米農家”を継いだワケ《深刻な後継者不足問題》
NEWSポストセブン
田村容疑者のSNSのカバー画像
《目玉が入ったビンへの言葉がカギに》田村瑠奈の母・浩子被告、眼球見せられ「すごいね。」に有罪判決、裁判長が諭した“母親としての在り方”【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
アメリカから帰国後した白井秀征容疑(時事通信フォト)
「ガイコツが真っ黒こげで…こんな残虐なこと、人間じゃない」岡崎彩咲陽さんの遺体にあった“異常な形跡”と白井秀征容疑者が母親と交わした“不穏なメッセージ” 〈押し入れ開けた?〉【川崎ストーカー死体遺棄】
NEWSポストセブン
赤西と元妻・黒木メイサ
《赤西仁と広瀬アリスの左手薬指にペアリング》沈黙の黒木メイサと電撃離婚から約1年半、元妻がSNSで吐露していた「哺乳瓶洗いながら泣いた」過去
NEWSポストセブン
元交際相手の白井秀征容疑者からはおびただしい数の着信が_(本人SNS/親族提供)
《川崎ストーカー死体遺棄》「おばちゃん、ヒデが家の近くにいるから怖い。すぐに来て」20歳被害女性の親族が証言する白井秀征容疑者(27)の“あまりに執念深いストーカー行為”
NEWSポストセブン
不倫疑惑が報じられた田中圭と永野芽郁
《永野芽郁のほっぺたを両手で包み…》田中圭 仲間の前でも「めい、めい」と呼ぶ“近すぎ距離感” バーで目撃されていた「だからさぁ、あれはさ!」
NEWSポストセブン