そのホールは、かみのやま温泉の近くにあり、井上の芝居の上演のほかコンサートや落語など、地域に文化を発信してきた。しかし、応援していた菓子メーカーの経営破たんにより存続が危ぶまれた。株式会社東ソーが命名権を買い、東ソーアリーナと名前を変えて命をつないでいる。ぼくもこのホールを応援したいと思い、11月にもサックスの坂田明さんと一緒に、トーク&ジャズのイベントをする予定である。
10位も、選びきれずに2人。梁石日と柳美里だ。柳美里の芥川賞を受賞した『家族シネマ』や『命』はエネルギーに溢れていて、読み直してもおもしろかった。
柳美里も、梁石日も、非差別部落の路地を書き続けた中上健次も、とてつもないエネルギーを発している。ぼくは、こうした生命のエネルギーを充電したくて、本を読んでいるのかもしれない。
こうやって、本の世界に迷い込んでいる。檀一雄は「ざまあみろ、これからが私の人生だ」と人間臭い生き方を示してくれるし、坂口安吾は人間、落ちるところまで落ちたとしてもたかが知れている、だから、思い切り生きろと、勇気づけてくれる。
コロナ後の世界は、モノやお金から心や文化へと、価値観が大きく変わっていくだろう。そんな大転換を、本の中の作家たちも喜んでいるのではないか。
●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。著書に、『人間の値打ち』『忖度バカ』など多数。
※週刊ポスト2020年9月11日号