「むしろ私を含め、働く女性たちの生きづらさや違和感はどこから来るのだろうと。自分を見つめ、4人の女性医師それぞれに何かを託すような気持ちで、書いては直し……。それこそ10年ぐらいかけて大事に作ってきた人物たちなんです」
いまは女性医師として活躍する長谷川仁美、坂東早紀、椎名涼子、安蘭恵子の現在と、彼女たちが医大生だった20年前、2つの時空を行き来しつつ、物語は進む。解剖学教室で同じ班になった縁で、卒業後も連絡を取り合う仲だが、いまの境遇や立場はみな違う。
「働く女性のモデルケースを挙げたというより、それぞれ私の心に刺さったエピソードを組み合わせて、4人を肉付けしました」
未婚の仁美は白内障手術にかけては医局内随一の腕を持つ眼科医だが、これ以上の出世はできない現実を突きつけられる。シングルマザーの早紀は、認知症の父の介護が加わり、循環器内科医からフリーランスの健診医に転身せざるを得なかった。救命救急医にやりがいを感じていた涼子は、エスコートドクターという新しいミッションを宛がわれて戸惑い、恵子は新生児科副部長としてひとりで責任を背負い込み過ぎて周囲から孤立したことも。
そこに重なる、結婚や家庭不和などプライベートの悩み。男性医師にももちろん仕事上の障壁はあるのだろうが、女性が女性というだけで背負う困難の大きさはあまりに痛切だ。
「医療現場って徒弟制みたいなところもあるので、男性の先輩医師が上にいれば、部活の後輩に対するような感覚で男性を引き上げたがる。一方、女性医師に対しては『妊娠出産などで戦線離脱する人は、うちには要りません』という空気がありありとある科もあって、私も“期待されていない感”は半端じゃなかったです(笑い)。
でも大事なのは、患者さんにとって最良の医療、人間的な医療ができる医師になること。長期的に見れば、子育てや介護での離職も、研究のための留学も、戻ってきたときにひとつの経験として医療のパフォーマンスに結びつけられれば、同じはずなんです。そういうところを公平に判断してもらえるようなシステムになればいいですよね」