「跳ね返り者は組織に組み込んでもらえません。女性が社会に順応しようとするなら、男性が牛耳る中で足場を築こうとあがき、立場を得たときに目標を実行するしかないから、城之内教授のように一度はシステムに飲み込まれてしまうのもめずらしくない気がします。そもそも『自分は女だから評価されない』と目くじら立てるのはカッコ悪いじゃないですか(笑い)。女性であることの差別を感じてはいても、それを言い訳にするのは私はイヤでした。
でも小競り合いの時期を過ぎて下の世代を見てみれば、やはりただ実力だけで決められてきたことではないんだなと痛感する。その息苦しさを汲んであげるのは、還暦も近くなった私のような世代の役目かなと」
現場を知るからこそのリアリティ。実体験から得た医師、患者、家族それぞれの思い。それらを心揺さぶるストーリーに溶け込ませ、現代医療のあり方を問い続ける稀有な作家なのだ。
【プロフィール】みなみ・きょうこ/1961年徳島県生まれ。日本女子大学卒業。出版社勤務を経て、東海大学医学部に学士編入し、卒業後、都内大学病院老年内科や終末期医療専門病院で勤務する。小説教室で執筆の楽しさに目覚め、講師だった五十嵐貴久氏、根本昌夫氏らのもとで学ぶ。2016年『サイレント・ブレス』でデビュー。2018年に刊行した『ディア・ペイシェント 絆のカルテ』は現在NHKにてドラマ放映中。他の著書に『ステージ・ドクター菜々子が熱くなる瞬間』『いのちの停車場』がある。161cm、A型。
構成■三浦天紗子 撮影■横田紋子
※週刊ポスト2020年9月11日号