ライブハウス「ロフト」創始者の平野悠さん(撮影/小松士郎)
だが、無名ミュージシャンのライブは人が入るわけもなく、赤字はふくらむばかり。平野さんは「ライブは儲からないもの」と割り切り、昼はロック喫茶、深夜はロック居酒屋の二毛作でライブの損失を補填する日々が続く。
この後、平野さんは「荻窪ロフト」「下北沢ロフト」を続々開業。山下達郎率いるシュガー・ベイブや浜田省吾、荒井(松任谷)由実、大滝詠一、RCサクセション、矢野顕子、サザンオールスターズなど、のちに日本のロック、ニューミュージックを牽引する原石たちがロフトという“磁場”に次々と引き寄せられていった。坂本龍一は烏山ロフト時代からの常連で、すでに“教授”と呼ばれていた。
「もとはクラシックの人だけど、ウチでフォークやロックの人々と交流し、影響を受けたと思う。細野(晴臣)さんともここで出会っています。とにかく女性客にモテた」
山下達郎は、自身の原点はライブハウスにあるとの矜恃をもつ希有なスターだ。2019年にも新宿ロフトでアコースティックライブを行い、ロフトとの縁は深い。
「彼は昔からずっとアカペラにこだわっていて、いまでも肉声が届く範囲の会場でしかライブをやらない。いまでも、その声量はすごいもんですよ」
新宿ロフト20周年記念で出版された『Rock is LOFT』(1997年)で山下は、「平野氏は、ミュージシャンのチャージをピンハネせず、採算はあくまで飲食営業でまかなうという画期的な発想の持ち主だった。駆け出しのバンドに最低動員保証をさせるいまの多くの似非ライブハウスの現状を見るとき、私たちは実に幸運だったと言う外はない」というコメントを寄せている。
余談だが、竹内まりやは、ロフト・レーベルで制作した「ロフト・セッションズ」というアルバムに、ボーカリストの1人として参加している。
「(山下)達郎さんがレコーディングを見に来てたし、キューピッドはロフトと言ってもいいかな」と平野さんはいたずらっぽく笑った。
※女性セブン2020年9月24日・10月1日号