今年は新曲リリースパーティーも中止になり、ツアーの開始も遅くなった。そして、会場ではマスク着用での観覧になり、声も出せない。そんな鬱憤を、ファンは多大な拍手に変え、ステージに立った本人に感謝の気持ちを現したのではないか。MCに入ると、田原も「今日はいつもより拍手が大きいね」と変化を指摘した。
本来ならば、大声で叫ぶことで、自らの愛を伝える観客もいる。しかし、コロナ禍のライブでは許されない。いつもなら「トシちゃ~ん!」と合いの手が入る所はペンライトが振られ、イントロ中に“コール”のある曲では田原が口元に人差し指を立て「シッ~」のポーズを作った。観客は素直に従い、飛沫を出さないように努める。MCになると、係員がドアを開けて換気し、会館側も十分な対策を行なっていたようだ。
田原は「いつもと違うこんな感じも好きです」と話し、バンドやダンサーとともに抗体検査を受けて「陰性」の判定が出たことも明かした。8月29日開催の配信ライブは無観客だったため、違和感を覚えたと語り、「『夜ヒット』のマンスリーを長めにやった感じだったね。今日はこうしてみんなに会えて、嬉しいです」と感謝を述べた。
アーティスト側からすれば、客席の半分しか埋められないコンサートを開催すれば、金銭的に厳しい状況が想定される。それでも、田原はステージに立つと決意した。そして、観客は規則をきちんと守り、いつも以上の拍手を送ることで本人を支えた。
田原は序盤から順調に立ち上がり、コロナ禍で調整の難しいと思われた今年も、1980年代のヒット曲をほとんど当時と同じ振付で踊った。終盤、疲れの見えた場面もあったようだが、2時間15分にわたってファンを魅了。全ての曲目を終えると、俯きながら「今日は僕にとって、一生忘れられない日になりました」と真面目に語った。その後、舞台を去りながら、涙を拭くマネをしておどけ、「……はっははははははは!」と高らかに笑った。