当時、藪氏は捜査4課に新設された『北九州地区暴力団犯罪対策室』の副室長だった。
「刑事部長からは、“1日10人逮捕しろ”とハッパをかけられたものです。私自身、工藤會を叩くにはこれまでのやり方では難しい。考え方を変える必要があると感じていました。私が一番こだわったのが、“資金源”にメスを入れることでした。各捜査班の班長から上がってくる報告のおかげで、工藤會のシノギの構造がある程度わかるようになっていた。ここを本気で叩く。そのための新たな体制として資金源対策の専従班を作りました」
当時、工藤會と北九州の一部土建業者には、長い時間をかけて築き上げられた“ズブズブの関係”があった。
「大型の工事では関連の企業が決まっており、かならず工藤會の息のかかった下請け業者に仕事が回される。するとその業者から工藤會に対してキックバックで金が入る。この利権解体に注力した。“兵糧攻め”をかけたのです。これで工藤會は一気に弱体化した。私が担当を外れた後になりますが、県警は頂上作戦にシフトし、トップの逮捕に全てを注ぎました」
そして2014年、元漁協組合長の刺殺事件に関与したとして、トップ3の野村総裁、田上会長、菊池理事長の3名を逮捕。翌年には木村博理事長代行も逮捕した。
藪氏は頂上作戦を見届けた2016年2月に退職。前述の通り、現在は暴力団員による不当な行為の防止と被害の救済を図ることを目的とした公益法人の専務理事を務めている。
「暴力団からの暴力から市民をまもるだけでなく、元ヤクザの社会復帰も手伝っています。いくら組織を離脱したといっても、元ヤクザの社会復帰には様々なハードルがある。銀行口座の開設さえ、離脱から5年経過しなければ難しい。しかし県警と我々が協力して、5年経過前に口座を開設することができた工藤會の元幹部もいます。小倉駅の近くでうどん屋さんをやっていますよ。私も何度か食べに行きました」