ビジネス

大前研一氏 マイナス成長を生き延びるためにはDXが不可欠

DXを果たした企業は伸びている(イラスト/井川泰年)

DXを果たした企業は伸びている(イラスト/井川泰年)

 第99代内閣総理大臣に菅義偉が就任し、新しい経済政策に注目が集まっているが、新型コロナウイルスの影響もあり危機的な状況に陥っている日本経済を回復させるために必要なものは何か。経営コンサルタントの大前研一氏が、デジタルトランスフォーメーションの重要性について解説する。

 * * *
 安倍晋三首相が残した最大の「負の遺産」は、アベノミクスの失敗である。

 たとえば、内閣府が発表した2020年4~6月期のGDP(国内総生産)は1~3月期から年率換算で28.1%減少し、事実上、戦後最悪の落ち込みとなった。安倍首相は「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」というアベノミクス“3本の矢”で「名目成長率3%」を目標に掲げ、それに合わせて日本銀行の黒田東彦総裁が「2年で2%」を物価目標にして異次元金融緩和を続けたが、7年8か月かけても達成できなかった。

 3本の矢はすべて的を外れてアベクロバズーカは不発に終わり、さらに“真水”の効果が疑わしい「Go To キャンペーン」を含む新型コロナウイルス対策で事業規模200兆円超という過去最大の補正予算を組んだ。その後遺症に“アフター安倍”の日本は苦しむことになる。

 とはいえ、日本でも伸びている企業がないわけではない。デジタルトランスフォーメーション(DX/デジタル技術で人々の生活をより良い方向に変化させたり、既存のビジネス構造を破壊したりして新たな価値を生み出すイノベーション)の分野で、生産性の向上を支援する事業を展開している企業だ。好例は、レブコム、コンカー、レッドフォックスなどである。

 レブコムの「MiiTel(ミーテル)」は、AI(人工知能)が電話営業の会話内容を自動録音・自動文字起こし・自動解析して評価し、顧客と話している時間の長さや割合、声の抑揚といったトークの改善点をコーチングする。コンカーは「Concur Expense」「Concur Request」「Concur Travel」という世界最大の出張・経費精算・請求書管理のクラウドサービスを提供。レッドフォックスは営業やメンテナンス、輸送などの現場作業をスマートフォンで革新する法人向けクラウドサービス「cyzen(サイゼン)」を開発・運営している。

 こうした企業で活躍できるスキルを持った人材にならないと、ウィズコロナ/アフターコロナの時代は職を失ってしまうのだ。

 したがって今後の日本は、ドイツの「シュレーダー改革」のような労働改革が必要となる。1998年から2005年まで首相を務めたゲアハルト・シュレーダー氏は、企業は生産性の低い労働者を解雇してもかまわないという政策を打ち出し、その代わり失業者には失業保険を払いながら21世紀型のスキルを身につけられる職業再訓練を施して再雇用されるようにしたのである。非情なようだが、日本も新型コロナ禍の中でつぶれる企業はつぶし、ドイツと同様の労働改革を断行しないと“失業の山”になるだろう。

 しかも、DXが進展すると、間接業務のホワイトカラーはもとより、ありとあらゆる分野で人が要らなくなる。たとえば会計士や税理士も、「freee(フリー)」などのクラウド会計ソフトを利用すれば簡単に決算書の作成や確定申告が自動化できるので、仕事がなくなっていく。このようなデジタルディスラプション(デジタルテクノロジーによる破壊的イノベーション)に、従来の日本の19世紀型職業訓練では全く対応できない。

 もちろん国自体もDXが不可欠だ。しかし、マイナンバーカードの普及率は19.1%(8月23日時点)にすぎない。マイナンバーカード所有者を対象に買い物などで利用できるポイントを累計で1人あたり最大5000円分還元する総務省の「マイナポイント」事業が9月1日から始まったが、おそらく効果は限定的だろう。キャッシュレス決済もポイント還元事業が終わって伸び悩んでいる。

関連キーワード

関連記事

トピックス

部下と“ラブホ密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(左・時事通信フォト)
《黒縁メガネで笑顔を浮かべ…“ラブホ通い詰め動画”が存在》前橋市長の「釈明会見」に止まぬ困惑と批判の声、市関係者は「動画を見た人は彼女の説明に違和感を持っている」
NEWSポストセブン
国民スポーツ大会の総合閉会式に出席された佳子さま(10月8日撮影、共同通信社)
《“クッキリ服”に心配の声》佳子さまの“際立ちファッション”をモード誌スタイリストが解説「由緒あるブランドをフレッシュに着こなして」
NEWSポストセブン
“1日で100人と関係を持つ”動画で物議を醸したイギリス出身の女性インフルエンサー、リリー・フィリップス(インスタグラムより)
《“1日で100人と関係を持つ”で物議》イギリス・金髪ロングの美人インフルエンサー(24)を襲った危険なトラブル 父親は「育て方を間違えたんじゃ…」と後悔
NEWSポストセブン
来日中国人のなかには「違法買春」に興じる動きも(イメージ)
《中国人観光客による“違法買春”の実態》民泊で派遣型サービスを受ける事例多数 中国人専用店在籍女性は「チップの気前が良い。これからも続けたい」
週刊ポスト
「父と母はとても仲が良かったんです」と話す祐子さん。写真は元気な頃の両親
《母親がマルチ商法に3000万》娘が借金525万円を立て替えても解けなかった“洗脳”の恐ろしさ、母は「アンタはバカだ、早死にするよ」と言い放った
NEWSポストセブン
自宅への家宅捜索が報じられた米倉(時事通信)
米倉涼子“ガサ入れ報道”の背景に「麻薬取締部の長く続く捜査」 社会部記者は「米倉さんはマトリからの調べに誠実に対応している」
競泳コメンテーターとして活躍する岩崎恭子
《五輪の競泳中継から消えた元金メダリスト》岩崎恭子“金髪カツラ”不倫報道でNHKでの仕事が激減も見えてきた「復活の兆し」
NEWSポストセブン
米倉涼子(時事通信フォト)
《マトリが捜査》米倉涼子に“違法薬物ガサ入れ”報道 かつて体調不良時にはSNSに「ごめんなさい、ごめんなさい、本当にごめんなさい」…米倉の身に起きていた“異変”
NEWSポストセブン
米・フロリダ州で元看護師の女による血の繋がっていない息子に対する性的虐待事件が起きた(Facebookより)
「15歳の連れ子」を誘惑して性交した米国の元看護師の女の犯行 「ホラー映画を見ながら大麻成分を吸引して…」夫が帰宅時に見た最悪の光景とは《フルメイク&黒タートルで出廷》
NEWSポストセブン
迎賓施設「松下真々庵」を訪問された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年10月9日、撮影/JMPA)
《京都ご訪問で注目》佳子さま、身につけた“西陣織バレッタ”は売り切れに クラシカルな赤いワンピースで魅せた“和洋折衷スタイル”
NEWSポストセブン
"殺人グマ”による惨劇が起こってしまった(時事通信フォト)
「頭皮が食われ、頭蓋骨が露出した状態」「遺体のそばで『ウウー』と唸り声」殺人グマが起こした”バラバラ遺体“の惨劇、行政は「”特異な個体”の可能性も視野」《岩手県北上市》
NEWSポストセブン
第79回国民スポーツ大会の閉会式に出席された秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
「なんでこれにしたの?」秋篠宮家・佳子さまの“クッキリ服”にネット上で“心配する声”が強まる【国スポで滋賀県ご訪問】
NEWSポストセブン