ソーシャルディスタンスで行列の長さが何倍にも
次に、人々が旅先やイベントで出会う行列について考えてみよう。そもそも日本人は並ぶことが好きなようだ。遊園地のアトラクション、駅の窓口やトラベルカウンター、フードコートの飲食店の注文レジなど、至る所で行列ができる。人気のある店で、3密を避けるために入場制限が行われれば、その入口で行列ができることも考えられる。
ワクワクする楽しいことのために行列に並ぶのは、たいして苦痛ではないだろう。人気のラーメン店で長い行列に並んだ末に味わう一杯は、格別の味がするかもしれない。
とはいえ、行列に並んでいると、「あと何分、待たなくてはならないのか?」と考えるのが普通だ。待ち時間を知りたいという思いは、行列の中で待つ人につきものだ。
あるイベントの入場口で、長蛇の列に並んだとしよう。こういうときに、待ち時間を見積もる方法として、「リトルの法則」が役に立つ。これは、アメリカのマサチューセッツ工科大学のジョン・リトル教授が発表した法則だ。
まず、自分が行列に並んでから、1分間で何人が自分の後ろに並んだかを数える。そして、自分の前に並んでいる人数を見積もり、その見積もり人数を、1分間に自分の後ろに並んだ人数で「割り算」してみる。その答えが待ち時間の推定結果というわけだ。
たとえば、遊園地で観覧車に乗ろうとして乗り場前に行ったとする。乗り場前には、つづら折りの行列ができていて、20人ほどで5列、すなわち約100人が並んでいたとする。
そこで、自分が列に並んでから1分の間に、後ろに5人が並んだ。すると、100人を5人で割り算して、この行列の待ち時間は「20分」と推定できる。
この法則を用いる場合、推定時間が当たるための条件として、行列の長さが同じまま変わらないことが必要となる。すなわち、1分間に行列の先頭で用を済ませる人数と、1分間に行列の後ろに並ぶ人数が同じで、行列の長さが伸びも縮みもしないことが条件となる。
コロナ禍は、行列の長さにも影響している。ウィズコロナ時代には、前の人との間隔を少し広めにとって並ぶソーシャルディスタンスが意識されるようになった。行列に並ぶ人数が同じでも、行列の長さは当然長くなる。
たとえば、先日、東京駅構内にある人気の和菓子屋では、レジに並ぶ客の行列が、地下街にとぐろを巻くように、長蛇の列をなしている様子がみられた。前の人と一定の距離をとっているために、行列が長くなっているのだ。また、多くの客で混み合う書店でも、レジに向かう果てしない行列ができていたという。そんな行列に並ぶときこそ、リトルの法則の出番といえるだろう。