もちろん、客はその店がどれぐらい混むか、店にやって来るまでわからない。また、他の客がどのくらい来店するかもわからない。この場合、店の混み具合はどの程度に落ち着くだろうか。客の身になって考えてみよう。
来店して心地よく感じた客は、また来たいと思うだろう。一方、混雑で不快に感じた客は、次の来店をしばらく見送ろうと考えるかもしれない。すなわち、混み具合が定員の6割までだったときの客は、次回もすぐに来たいと思い、6割以上だったときの客は、しばらく来たくないと考えるはずだ。
もし客がみな、前回体験した心地よさや不快感だけを頼りに、まったく同じ来店行動をとるとしたら、この店の混み具合は、毎日、乱高下することになる。たとえば、
「前回心地よく感じた人は、必ず翌日来店する」
「不快だと感じた人は、必ず1週間空けたうえで来店する」
といった法則に従うとすると、混み具合は激しく上昇したり下落したりする。しかし、客が確率的に行動するとしたら、どうなるだろうか。
前回心地よく感じた人は、翌日、高い確率で来店する。不快に感じた人は、翌日、低い確率でしか来店しない。このように、確率的に前提を置いてみると、店の混み具合は徐々に座席数の6割に収れんしていく。実際に、実証実験を行ったところ、そのような結果が出たという。
ただし、これはあくまでアメリカの、とあるバーの話だ。コロナ禍以前、日本の飲食店では、客の入り具合が人気のバロメーターとなっていた。人気の高い店ほど、いつも満席となっていて、入り口には入店待ちの人が溢れ返っている光景があった。
しかし、ウィズコロナ時代となって、客が3密の回避を意識するようになると、様相は大きく変わってくる。店内が閑散としてはいないが、かといって密でもない。そうした適度な混み具合が、心地よく感じられるようになる。そうなれば、このエルファロル・バー問題と同様、さまざまな飲食店の混雑率は、やがて6割程度に落ち着くようになるかもしれない。