こうした危険性がいまだ周知されていないことについてはメディアの責任も大きいと感じます。著名人が逮捕された時ばかり、センセーショナルに違法薬物に関する報道がなされますが、これが薬物犯罪や乱用の抑制に繋がっているとは言い難い。単なるゴシップとして流されているとの印象です。
メディアは「芸能界の薬物汚染」としきりに叫びますが、個人的には特別芸能界で流通しているとは思えません。官僚や公務員に増えていることのほうが問題です。警察官、自衛官、教職員などが次々と逮捕されている。人々の見本となるべき立場の者、本来であれば犯罪組織や違法薬物とは無縁であるはずの者が、いとも簡単にクスリに手を染めているのです。
誰がやっていてもおかしくない。そんな時代になってきているのですが、報道されるのは相変わらず芸能人などメディア受けする人ばかりで、違法薬物の根深い問題が世の中に届いていないと感じます。
知ってほしいのは、末端使用者の場合は家族や周辺者からの悲愴な相談を受けて捜査に移行するケースが多く、ある意味患者だということです。法律に抵触する行為に及んだわけですから、刑罰を受けることは避けられませんが、私にとって彼らの逮捕は、“救済する”という感覚に近かった。場合によっては、依存症からの回復に向けた孤独で長い旅を始めるのです。
メディアはくれぐれも乱用者に対する差別や偏見を助長せず、薬物問題の本質を正しく伝えてほしい。そう切に願います。
●せと・はるうみ/1956年、福岡県生まれ。明治薬科大学薬学部卒業。1980年に厚生省麻薬取締官事務所(当時)に採用。九州部長などを歴任し、2014年に関東甲信厚生局麻薬取締部部長の就任。2018年3月に退官。2013年、2015年に人事院総裁賞受賞。斯界では「Mr.マトリ」と呼ばれる。
■取材・文/高橋ユキ(ジャーナリスト)