今年8月のケースは、不況に加えて自粛生活の閉塞感や環境の変化なども要因として考えられる。というのも、これまではずっと、自殺者は7対3の割合で男性の方が多かったが、先の速報値では、男性が前年同月から60人増加したのに対し、女性は186人も増加しているのだ。
これまで、男性の自殺者が多かった要因として、男性特有の「攻撃性の高さ」があると考えられてきた。
「自殺は殺人であり、“自分を殺すこと”です。人を殺すには意志と体力が必要で、そうした攻撃性やエネルギーは女性よりも男性の方が強い。実際、殺人事件の犯人のほとんどは男性です」(橋爪さん)
にもかかわらず、急激に女性の自殺者の割合が増えたのは、コロナの影響が女性の生活を大きく変えたからだ。
「そもそも女性は、ストレスを受けるとホルモンバランスが崩れて自律神経が乱れやすく、うつ病や自殺未遂は男性より多いのです。コロナ禍では非正規雇用者の賃金・人員のカットが増えました。安倍政権下で女性の非正規雇用者が増えたため、コロナのショックが働く女性を直撃したのでしょう。またワーキングマザーやシングルマザーは、学校や保育所の休業などで環境が大きく変化し、仕事と家庭を両立するストレスは膨れ上がったはずです」(杉浦さん)
環境の変化は、コロナ禍のようなネガティブなものでなくとも、人の心を大きく乱す。いまから150年ほど前、フランスの社会学者のデュルケームが、統計を用いて自殺者を調査した。従来は「経済的困窮だけが自殺の要因」とみられていたが、調査の結果、それだけではないことがわかった。景気がよくなって懐が急に潤った人や、田舎から都会に出た人がしばらくして自殺するパターンが多かったのだ。橋爪さんはいう。
「たとえ収入が安定していて暮らしが豊かだったとしても、急に周囲の環境が変わると人間は不安に襲われ、自殺を選んでしまうことがあるのです。環境の変化は、周りから見ると決して負の出来事ばかりではなく、たとえば、万年ヒラ社員が急に係長に抜擢されて、パニックで自殺することもあり得ます」(橋爪さん)
経済的困窮に大きなストレス、そして環境の変化が、人々を自殺に駆り立てたのかもしれない。
【相談窓口】
「日本いのちの電話」
ナビダイヤル0570-783-556(午前10時~午後10時)
フリーダイヤル0120-783-556(毎日午後4時~午後9時、毎月10日午前8時~翌日午前8時)
※女性セブン2020年10月29日号