だが、かつての『ウルトラセブン』でアンヌを見初めた子どもたちが大人になった頃、過去の番組のソフト化やネットの普及によって、自らのヰタ・セクスアリスを彩ったひし美ゆり子といつでも存分に「再会」できるようになった。そのおかげでアンヌ隊員人気が再燃、普通の主婦だったひし美さんは自ら何を仕掛けたわけでもないのに、いつの間にか「アイドル」になっていた。これまさに「流され女優」ならではの椿事であった。
あの天下の名優・山崎努氏さえもが、ひし美さんのことを激賞した。こんな欲も得もなく「どんぶらこどんぶらこと映画テレビ界を漂流」し、「お気軽女優」を以て任じていた彼女は、「肩ひじ張らない力の抜けたかっこいい女性である」と。
【プロフィール】
樋口尚文(ひぐち・なおふみ)/1962年生まれ。映画評論家・映画監督。早稲田大学政治経済学部卒業。監督作に『インターミッション』『葬式の名人』。著書に『万華鏡の女 女優ひし美ゆり子』(ひし美ゆり子との共著)、『秋吉久美子 調書』(秋吉久美子との共著)のほか多数。
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多くの人間を今も惹きつけるひし美ゆり子。彼女自身はこう語る。
「こうして今も多くの人が私の写真を見てくれるのは、私の顔が当時の流行の顔じゃなかったからだと思うの。当時は自分でも個性がないと思っていたもの。むしろ今どきの顔だから今のほうが見てもらえているのかも。
そんな私を当時面白がってモデルにしたのは、東宝専属カメラマンだった石月美徳さん。よくプライベートで井の頭公園や東宝撮影所で撮影していました。まさか50年経ってもこうして雑誌に載るなんてね。フィルムを捨てなくてよかったわ(笑い)」
写真は『ひし美ゆり子写真集 YURIKO 1967-73 Evergreen』(復刊ドットコム)より。
※週刊ポスト2020年10月30日号