サニブラウンに勝った男
野手で注目しているのは、中央大学の五十幡亮汰外野手だ。
まさに“スピードスター”。「サニブラウンに勝った男」という異名で高校時代(佐野日大)から話題となってきたが、中大の先輩でもあるヤクルト小川淳司GMが「12人の中に入ってくる」とコメントしたこともあり、ここに来て、ドラフト1位候補とまで言われるようになっている。
スピードスターの中央大学・五十幡亮汰外野手(写真提供/中大硬式野球部)
最近では近本光司(阪神)、辰巳涼介(楽天)といったスピードを武器とした外野手が1位指名を受けた例はあるが、スカウトに聞くと「さすがに、そこ(1位)までは……」と言葉を濁される。
どこの球団も、先発ローテーションを担える投手や、将来的に主軸を打てる打者といった、チームの骨組みの部分にまず手をつけていく。五十幡のような、いわば“飛び道具”は、おのずと優先順位が後になってくるものだ。
とはいえ、五十幡の足が“スペシャル”であることは間違いない。50mのタイムが5.6秒。一塁まで3秒5で駆け抜ける。中学時代は野球と陸上を掛け持ちし、全日本中学陸上選手権の100mと200mで、あの100m日本記録保持者サニブラウン・ハキームを破って優勝している。それが「サニブラウンに勝った男」という異名の由来だ。
100m日本記録保持者のサニブラウン・ハキーム(EPA=時事通信フォト)
だが皮肉なことに、五十幡のドラフトにおける評価基準は、この“足”とは別のところにある。それは“バッティング”であり、また“守備”の能力だ。
いまや、どこのチームにも足のスペシャリストはいる。ソフトバンクならば周東佑京、巨人なら増田大輝、ロッテなら和田康士朗……。そしてファームや育成に目を向けると、彼らの予備軍がゴロゴロしている。今年のドラフト候補の中にも、並木秀尊外野手(獨協大学)のように、五十幡に匹敵するスピードを持つ選手もいる。
そうなると、単なる“走り屋”、代走要員として考えるのであれば、あえて五十幡にこだわる必要はない。極論すれば、「下位で残っていたから指名しよう」という程度で十分だし、先に他球団に指名されてしまったら別の選手を探せばいい。
だが、もし五十幡がプロでレギュラーとして10年以上やれる選手であれば、その存在価値は一気に上がる。そのときに基準になるのが打つことと守ること。だからスカウトたちは、最大の武器である足よりも、五十幡のバッティングと守備力を、「プロでどれくらいのレベルに行けるのか」という視点で見ているのだ。
五十幡はプロでも俊足を武器にできるか(写真提供/中大硬式野球部)