2007年に「ミシュランガイド東京2008」発表。以降、毎年発行されている(時事通信フォト)
「もっといい評価にしましょう」という変な電話
10の褒め言葉より1の批判が気になるのはよくわかる。オーナーも長年店をやってきて、こんな時代が来るとは思わなかっただろう。当時、先輩に連れられて初めてこの店を訪れた時、ネットなどパソコン通信しかなかったから、誰もが手軽に利用するものではなかった。情報源といえば雑誌やテレビの紹介、そして人と人の紹介や口コミだった。
「そうなんです。いまさらと思うかもしれませんが、慣れないですね」
オーナーはパソコンに興味はない。スマホ(2年前までガラケーだった)で確認する程度だ。それでつい店の評判を見てしまうわけだが、どうしても僅かな嫌なコメントが気になってしょうがないという。
「本当はネット(グルメサイトのこと)の評価なんていらないんです。余計なお世話なんです。小さくやってるだけですから、悪口なんてまっぴらです」
余計なお世話とは、グルメサイトが勝手にオーナーの店を登録したことだろう。店が嫌だと言ってもグルメサイトは載せる。これは最高裁の判断(上告不受理)で確定している。サイトにもよるが店舗情報も口コミも「表現の自由」ということだ。そして捏造や誹謗中傷も「表現の自由」を建前に、削除への道のりは果てしなく遠い。グルメサイトは運営側が店舗情報を掲載する仕組みのところが多いが、なかには単なるユーザーもお店を載せられるサイトもある。冒頭で、この店を「絶対教えたくない」と綴ったが、もはやそんな戯言は通用しない社会になってしまった。
「さっそく営業の連絡が来ました。有料登録するとこんないいことがあるって。不要なので断りましたが、店の削除はしてくれないそうです」
グルメサイトも商売だ。さすがに勝手に登録した分は無料だが、有料定額(掲載料)への勧誘は必ずある。それ以外にも予約サービスの手数料(送客手数料)など、たけのこ剥ぎのように細々とお金を取る。別にお互いが納得ずくなら何ら構わない商行為だが、まず勝手に登録されたあげくの勧誘なので面白く思わない店があっても仕方のない話、それでも「表現の自由」なので抗えない。
「もっといい評価にしましょう、って変な電話もかかってきます。そのグルメサイトではないです。さっぱりわかりません」