ショバ代を要求するようなビジネス
勝手に登録してショバ代を要求するようなビジネスは曲がり角に来ている。実際、グルメサイト大手は有料契約店を1万店以上減らしている。これはそれまでの全契約店の約2割、売上高も70%以上減った。コロナの影響は当然だが、送客力そのものの落ち込みもある。昨年明るみに出た、店がサイト側に金を払えば払うほどランキング上位に表示される問題は口コミ評価の信用下落、あらぬ疑いをかけられる羽目となり、肝心の「神」である利用客から愛想を尽かされ始めた。
GoToイートのグダグダぶりはいまさら書くまでもないが、このキャンペーンを頼みの綱としていた店側だけでなく、グルメサイトも期待通りにはいっていない。これまでの強引な手法は公取(公正取引委員会)に目をつけられ、今年3月には実態調査の結果を公表するとともに独占禁止法違反の疑いがあると自主改善を促されている。改善されない場合は、法律に基づいて処分などがくだされる可能性がある。
「みなさん仕事だから仕方ないのでしょうけど正直迷惑です。せっかく作る料理の上前をはねられるみたいで」
オーナー、うまいことを言うなと思う。いつからか日本はものを作る人より、ものを作る人の上前をはねる人のほうが上等な社会になってしまった。それは農業、工業はもちろんアニメやゲームのような娯楽産業に至るまで、ものを作る人の上前を誰かが常にはねている。フリーライダーとは本来は別の意味だが、このように過剰な上前をはねることだけが目的のフリーライダーがもてはやされてきた。それを一部グルメサイトとするなら、その連中を利用して小銭を稼ぐ口コミヤクザも跋扈している。ものを作る人々、本稿のオーナーのような実直な職人の多くが疲弊し、コロナ禍に店をたたむことがフリーライダーどもの駆除につながるというのも皮肉な話だ。まるでオリンピックという盛大な中抜き大会にしくじった有象無象のように。中抜きそのものを悪とまでは言わないが、多くの料理人を、オーナーを苦しめる一部グルメサイトとその周辺のタカりレビュアーがより儲けるシステムを健全とは思わない。
疫禍は悲劇だが、社会の変革をもたらすのは歴史が証明している。貪欲は人間の本質とはいえ、その変革の先にアフターコロナの世があるとするなら、ものを作る人、現場の人が報われる社会、せめて邪魔しない社会になって欲しい。言ったそばから理想論が過ぎるかと気恥ずかしくなってしまったが、どこまでも実直で私の大好物を変わらず振る舞ってくれるオーナーは笑顔でうなずいてくれた。
●ひの・ひゃくそう/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。2018年、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。近刊『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社)寄草。近著『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。