スポーツ

1982年、首位打者争いの田尾安志が5連続敬遠から学んだこと

楽天監督時代にはこの出来事から得た教訓を選手へ伝えたという(田尾安志氏、時事通信フォト)

楽天監督時代にはこの出来事から得た教訓を選手へ伝えたという(田尾安志氏、時事通信フォト)

 いよいよ大詰めを迎えるプロ野球。過去には、歴史に残るバトルが繰り広げられたこともあった。当事者が振り返る──。

 1982年のプロ野球ペナントレース終盤、中日の田尾安志と大洋の長崎啓二(当時。現・長崎慶一)の首位打者争いは、長崎の9毛差リードで最終戦の直接対決。この試合は中日が勝てば優勝、大洋が勝てば巨人が優勝する大一番でもあった。長崎を欠場させた大洋は、先頭打者の田尾を5打席連続敬遠。田尾は8回の5打席目で敬遠のボール球にバットを振り、抗議の意を示した。勝負を避けて大敗した大洋は巨人ファンからも非難された。当事者でもある野球解説者の田尾安志氏が、当時の裏側を語る。

 * * *
 5打席目の時点で8対0とリードしていたので、三振でアウトになってもいいと思ってバットを出しました。納得していない気持ちを示したかった。ビジターなのに優勝を期待する大勢の中日ファンが駆けつける中、ファンが期待する真っ向勝負ができず申し訳ないとの思いもありました。

 大洋のキャッチャーの辻恭彦さんに『勝たせてやっているのに何だよ』と言われてカチンときた。僕は真剣勝負でも絶対に優勝できると信じていたし、勝負してもらえば首位打者を取る自信もありましたから。

 ボール球を2度振ってフルカウントになると黒江透修コーチがベンチから飛び出してきて、『もう勝利に貢献できているし、もういいじゃないか。三振すると大変なことになるぞ』と僕に言ったそうです。カッカしていたのでよく覚えていないのですが、『振るな!』という言葉だけは耳に残りました。

 コーチの命令は受け入れないといけない。だから、仕方なく6球目のボールを見送って一塁に歩きました。

 確かにタイトルは大きなステイタスですが、そのために勝ちを捨てるのも納得できなかった。しかもあの試合は巨人にとっても、優勝のかかった試合でした。大洋の監督も悩んだ末の結論でしょうが、僕が首位打者を取るかどうかなんてペナントの行方に比べたら些細なこと。それより大切なのは常に真剣勝負をして、ファンをがっかりさせないことです。

 のちに楽天の監督になってから選手には『いくら負けても、ファンに納得してもらえるプレーをしてほしい』と言い続けました。それは全力プレーであり、真剣勝負です。あの5連続敬遠から学んだのです。

※週刊ポスト2020年11月6・13日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

本拠地で大活躍を見せた大谷翔平と、妻の真美子さん
《スイートルームを指差して…》大谷翔平がホームラン後に見せた“真美子さんポーズ”「妻が見に来てるんだ」周囲に明かす“等身大でいられる関係”
NEWSポストセブン
部下と“ラブホ密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(左・時事通信フォト)
《「策士」との評価も》“ラブホ通いすぎ”小川晶・前橋市長がXのコメント欄を開放 続投するプラス材料に?本当の狙いとは
NEWSポストセブン
女性初の首相として新任会見に臨んだ高市氏(2025年10月写真撮影:小川裕夫)
《維新の消滅確率は90%?》高市早苗内閣発足、保守の受け皿として支持集めた政党は生き残れるのか? 存在意義が問われる維新の会や参政党
NEWSポストセブン
2021年ドラ1右腕・森木大智
《悔しいし、情けないし…》高卒4年目で戦力外通告の元阪神ドラ1右腕 育成降格でかけられた「藤川球児監督からの言葉」とは
NEWSポストセブン
滋賀県を訪問された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年10月25日、撮影/JMPA)
《すぐに売り切れ》佳子さま、6万9300円のミントグリーンのワンピースに信楽焼イヤリングを合わせてさわやかなコーデ スカーフを背中で結ばれ、ガーリーに
NEWSポストセブン
注目される次のキャリア(写真/共同通信社)
田久保真紀・伊東市長、次なるキャリアはまさかの「国政進出」か…メガソーラー反対の“広告塔”になる可能性
週刊ポスト
送検のため奈良西署を出る山上徹也容疑者(写真/時事通信フォト)
《安倍晋三元首相銃撃事件・初公判》「犯人の知的レベルの高さ」を鈴木エイト氏が証言、ポイントは「親族への尋問」…山上徹也被告の弁護側は「統一教会のせいで一家崩壊」主張の見通し
NEWSポストセブン
この笑顔はいつまで続くのか(左から吉村洋文氏、高市早苗・首相、藤田文武氏)
自民・維新連立の時限爆弾となる「橋下徹氏の鶴の一声」 高市首相とは過去に確執、維新党内では「橋下氏の影響下から独立すべき」との意見も
週刊ポスト
新恋人のA氏と腕を組み歩く姿
《そういう男性が集まりやすいのか…》安達祐実と新恋人・NHK敏腕Pの手つなぎアツアツデートに見えた「Tシャツがつなぐ元夫との奇妙な縁」
週刊ポスト
女優・八千草薫さんの自宅が取り壊されていることがわかった
《女優・八千草薫の取り壊された3億円豪邸の今》「亡き夫との庭を遺してほしい」医者から余命宣告に死の直前まで奔走した土地の現状
NEWSポストセブン
左から六代目山口組・司忍組長、六代目山口組・高山清司相談役/時事通信フォト、共同通信社)
「六代目山口組で敵う人はいない」司忍組長以上とも言われる高山清司相談役の“権力” 私生活は「100坪豪邸で動画配信サービス視聴」も
NEWSポストセブン
35万人以上のフォロワーを誇る人気インフルエンサーだった(本人インスタグラムより)
《クリスマスにマリファナキットを配布》フォロワー35万ビキニ美女インフルエンサー(23)は麻薬密売の「首謀者」だった、逃亡の末に友人宅で逮捕
NEWSポストセブン