阪神の2021年ドラ1右腕・森木大智
阪神が日本一を懸けて戦う裏で、チームを去ったのが2021年ドラ1右腕・森木大智(22)だ。高卒4年目で受けた戦力外通告をどう受け止めたのか。ノンフィクションライター・柳川悠二氏が迫った。(文中敬称略/前後編の前編)
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クライマックスシリーズが始まろうとしていた10月上旬、阪神の森木大智は兵庫県尼崎市の二軍施設「ゼロカーボンベースボールパーク」のサブグラウンドに姿を現わした。
いや、既に来季の構想から外れ、戦力外通告を受けている森木は、事実上、阪神の選手ではない。一軍や二軍の練習に参加することはおろか、「120」の背番号が入ったユニフォームやウエアすら着ることが許されない。
森木は9時半という誰もいない時間帯を見計らい、同じ境遇の選手と30分以上にわたってキャッチボールをしていた。その後は室内練習場に籠もり、青空の下で練習することはなかった。
高知中学時代に軟式球ながら150キロを記録して「スーパー中学生」と呼ばれた森木は、高知高校時代も世代ナンバーワンの称号を得ていた。2021年のドラフトで1位指名を受けて阪神に入団したものの、3年目を終えた昨オフに育成契約となり、この秋にはとうとう居場所を失った。 そんな森木にはこの日、若虎たちが暮らす虎風荘の近くで話を聞くことになっていた。
「去年、育成に落ちて、『やばいな』とは思っていましたけど、自分でも良いと思える登板が増えていたので、もう1年、面倒をみてもらえるんじゃないかと密かに期待もしていました。でも……そんなに甘くはなかったですね。悔しいし、情けないし、勝負弱さを痛感したし、思い残したこと、やり残したこともたくさんある。まだまだやれます」
一軍登板は4年間で1年目の2試合のみ。今季は二軍戦14試合に登板し、防御率は13.81。数字は厳しい現実を突き付ける。
