連載が始まったとき、『日没』は、近未来、もしくはここではない別の日本を描くように見えたのに、4年の間に、現実の日本が小説の世界にみるみる近づいた。いま話題の、日本学術会議の選任で一部の学者を理由も告げずに政府が拒否するやり方は、リアル『日没』なのかと思わせる。『日没』の収容所はまた、七十数年前の日本で実際に行われたことを連想させもする。
「今回は辛くも逃げ切った、というところですけど、小説を書いていて現実に追いつかれる経験をすることはいままでもありました。でももし、桐野がいつの間にかいなくなった、なんてことになったら、みなさん捜索を、よろしくお願いしますね」
◆『日没』/《私は基本的に世の中の動きに興味がない。というのも、絶望しているからだ。いつの間にか、市民ではなく国民と呼ばれるようになり、すべてがお国優先で、人はどんどん自由を明け渡している》。そんな作家・マッツ夢井に総務省文化局・文化文芸倫理向上委員会から召喚状が届く。パソコンの調子は悪くなり、飼い猫は姿を消し、作家仲間は入院、元彼は自殺‥‥周囲で不穏な出来事が立て続けに起こる中、「作家収容所」へ。マッツはそこから脱出できるのか!? ページをめくる手が止まらない、心拍数が上がる「近未来」小説!
【プロフィール】
桐野夏生(きりの・なつお)/1951年生まれ。1993年「顔に降りかかる雨」で江戸川乱歩賞、1999年『柔らかな頬』で直木賞、2003年『グロテスク』で泉鏡花文学賞、2004年『残虐記』で柴田錬三郎賞、2005年『魂萌え!』で婦人公論文芸賞、2008年『東京島』で谷崎潤一郎賞、2009年『女神記』で紫式部文学賞、『ナニカアル』で2010年、2011年に島清恋愛文学賞と読売文学賞の2賞を受賞。近著に『路上のX』『ロンリネス』『とめどなく囁く』など。
取材・構成■佐久間文子
※女性セブン2020年11月19日号