だが、その後の国共内戦に勝利した共産党の毛沢東は蒋介石を台湾に追い出し独裁体制を確立した。つまり、今の中華人民共和国は戦勝国ではなく、共産党政権は“偽りの政権”なのだ。
したがって、中華人民共和国が戦勝国であるためには戦時中の「国共合作」が現在も続いていることを前提にしなければならない。だから習近平はその嘘を糊塗するために、清朝を倒して中華民国を樹立した「辛亥革命」の指導者・孫文の生誕150年を記念した2016年の演説で「中国共産党が孫文の最も忠実な継承者だ」と驚くような発言をした。共産党政権の出自の矛盾を解消するためには、そう言わざるを得ないのだ。
このため、国共合作=台湾も含めた「一つの中国」を実現することが、ますます必須となっている。台湾を併合しなければ、共産党による“国造り”の物語が成り立たないからである。
それでも国内では、共産党が絶対的な権力と富を独占しているため、武漢のロックダウンをはじめとする新型コロナ対策など、何でも好き勝手なことができる。企業も、共産党政権に歯向かわない限りは自由に事業を展開・拡大して成長できるから、アリババやテンセント、ファーウェイなどのようなIT企業が大手を振っている。そうやって企業が成長すれば政府も儲かるという仕組みであり、それによって中国は粛々と成長を続けているのだ。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊は小学館新書『新・仕事力 「テレワーク時代」に差がつく働き方』。ほかに『日本の論点』シリーズ等、著書多数。
※週刊ポスト2020年11月20日号