田辺氏は松下がこれまで演じてきた“音楽家役”の中でも、デビュー作『仔犬のワルツ』が特筆に値すると語る。
「松下奈緒さんはこれまで何度か音楽家役をつとめていますが、特に印象的だったのがドラマ『仔犬のワルツ』の天才ピアニスト役。代役なしでピアノシーンをおこなったそうですし、確かに演奏の仕方、姿勢、音、表情のすべてに『音楽奏者である強み』を感じた記憶があります。
映画やドラマは『いかに上手に嘘を演じられるか』が面白いですが、音楽演奏に関しては、嘘は通用しません。リアルであればあるほど鑑賞者を引き込めます。編集や撮影でリアルに見せるか、それとも演者がリアルに見せるか。そこが重要です」(田辺氏)
さらに田辺氏は、クラシックのピアノ演奏でセッションを行う経験が、そのまま役者としての演技力にもフィードバックすると説明する。
「私は先日、バイオリニストの横山令奈さんをインタビューしたのですが、横山さんはお笑いが大好きで、NON STYLEやオリエンタルラジオのネタをよく観ていらっしゃるそうです。横山さんは『芸人同士の息の合わせ方』がクラシックの演奏に似ているとお話ししていました。
クラシックでもいろんな演奏者とセッションをおこないます。そこで息の合う、合わないが出てくるそうです。そういったタイミングを、芸人の漫才などを見て参考の一つにしているそうです。
松下奈緒さんのように女優であり、音楽奏者でもある場合、どちらも共演する相手との呼吸、間合い、タイミングが重要なので、両方を経験することで相乗効果としてどちらの力も伸びていくのではないでしょうか」(田辺氏)