終戦期、共産党指導の騒擾(そうじょう)事件が多発した。そのうちのいくつかは警備当局が舌を巻くほど用兵術が上手かった。当局は旧軍の関係者がデモ隊を指導したと見ている。旧軍は「鬼畜米英」、デモ隊は「反米」、旧軍が関与したとしても不思議ではない。ベトナムではベトコンの前身ベトミンに旧日本軍の軍人が加わりベトナム独立戦争を支援している。
それから二十年ほど後、私の学生時代。いくつもの大学で学生叛乱が起き、校舎がバリケード封鎖された。そこへ眼光鋭い老人が現われ、バカモノ、こんな子供だましのバリケードで機動隊の攻撃を防げるものかと叱りつけ、バリケードの積み直しを命じた。事実、その校舎のバリ封鎖は強かった。老人は旧軍人だったらしい。
やがて軍事技術が忘れられて、学生たちはおとなしくなった。なるほどこれはこれで悪くはない。
【プロフィール】
呉智英(くれ・ともふさ)/1946年生まれ。日本マンガ学会理事。近著に本連載をまとめた『日本衆愚社会』(小学館新書)。
※週刊ポスト2020年11月27日・12月4日号