読み方の変化には、いくつかのパターンがある。まずは、“読み間違い”によって慣用化した読み方が定着するケースだ。代表的なのが「他人事」の読み方である。日本語学者で国立国語研究所教授の小木曽智信氏はこう言う。
「もともとあった『ひとごと(人事)』という言葉を『他人事』と書くことがあった。これは『人事』と書くと『じんじ』と区別が付かないため。ところが、『ひとごと』と読むべき『他人事』の一部分が『たにん』と読まれて、『たにんごと』という新しい言い方ができ、これがかなり定着してきました」
「ひとごと【他人事】」を辞書で引くと、〈今は「他人事(たにんごと)」ということばができている〉と書かれている(『新選国語辞典 第九版』)。
「重複」も同じだ。
「伝統的には『ちょうふく』と読みますが、『重』は『じゅう』とも読み、こちらで読む熟語が多い。そのため、『じゅうふく』と読む人が多数派となって定着したのでしょう」(同前)
辞書の「じゅうふく【重複】」の欄には〈「ちょうふく」が本来の言い方で、「じゅうふく」は比較的新しい形〉とある(同前)。
慣用読みが定着した言葉としては、ほかに「相殺(そうさい→そうさつ)」、「憧憬(しょうけい→どうけい)」、「施策(しさく→せさく)」、「早急(さっきゅう→そうきゅう)」などがある。
混同を避けた
藤井アナが“謝罪”した「重用」のケースはさらにややこしい。
「明治・大正ごろの読みは『じゅうよう』が普通だったが、テレビやラジオなどで話すときに『重要』の語と区別するために『ちょうよう』と読む慣用化が進んだ。しかし最近ではまた元の『じゅうよう』という読み方をする傾向にあります」(同前)
「重用」と同じように、伝統的な「本来の読み方」を重視するようになったのが「世論」だ。
「『よろん』はもともと『輿論』と表記していたものが、戦後に『輿』の字が当用漢字(今の常用漢字)から外されて使えなくなり、代用字として『世』の字を使って『世論』と表記するようになった。
しかしそう書くと音読みならば『せろん』と読むほうが自然だということで、『よろん』とも『せろん』とも読むようになりましたが、目下のところは元の『よろん』のほうが優勢です」(飯間氏)