店舗前で待機するウーバーイーツの配達員(時事通信フォト)

店舗前で待機するウーバーイーツの配達員(時事通信フォト)

「うちみたいな家賃もいらない爺さんの小商いならともかく、大きくやってるようなチェーンとかは大変だよな、みんな不景気だ。大変な世の中だよ」

 店主の言うように大変な世の中だ。コロナ禍の解雇、雇い止めは厚生労働省11月9日の発表でついに7万人を超えた。失業者のみならず、名だたる大手企業から中小零細まで給与削減、ボーナスカットを迫られている。冬のボーナスがカットどころか支給ゼロとなる企業も多く、ボーナスを見込んで住宅ローンを組んだサラリーマン層は危機的状況に陥る可能性がある。都合の良い配達員が調達できて、コロナ禍に客足の途絶えた飲食店側も高い手数料を払うしかない。注文者と飲食店からの両取りかつ雇用関係のない配達員を操れる、ウーバージャパンにしてみれば笑いが止まらないだろう。

 増え続ける利用客に比例して嫌われるウーバーイーツ。それもこれも、宅配員や客の問題というより根底にあるのは一定の社会的責任を負うべきウーバー・テクノロジーとその日本法人であるウーバージャパンの問題だろう。2019年度決算は純利益162%増、コロナ特需の2020年はさらに好決算が予想される。走れば苦情、待てば苦情の何もかもを販売員に押し付けて吸い上げるだけ。雇用関係は結んでいないから関係ないと言い張るが業務委託契約もない。それでもコロナ禍に追い詰められた人々の多くは、こんな条件でもギグワークに従事せざるを得なくなる。利用する側は自分を客と思っているだろうが、ウーバー側の論を汲むなら利用する側、つまり頼む客が雇用主である。いずれ客への責任転嫁も起こり得るかもしれない。

「これウーバーのせいで曲がってんの。逃げられたけど、こんだけ曲がったんだから痛かっただろうに」

 車線のない駅前通りにいたトラック運転手がボヤく。見ればトラックのミラーが思いっきりあっちの方向に曲がっている。ウーバーイーツの当て逃げならぬ曲げ逃げ、これも立派な犯罪だが、ウーバージャパンは自社の事故件数を一切明かしていない。警視庁によればフードデリバリーなど「仕事」で自転車に乗る配達員の交通事故は都内だけで2019年は562件と過去最悪だ。今年に至っては1月~9月ですでに475件と前年比15%増、じつは自転車そのものの事故は2割も減っている。コロナであらゆる仕事が減った一方で盛況だった業種を考えれば、自転車でフードデリバリーに従事する配達員の事故だけ増えているのだと考えてもおかしくない。表沙汰にならない軽微なものや現場レベルで隠蔽されたものも含めるとさらに多いだろう。

 もちろんすべてがウーバーイーツでなはいし、極端に悪質な配達員は一部だと信じたい。しかし今年4月のウーバー配達中の大学生の事故死や5月の高速侵入騒ぎ、そしてSNSを中心に各地で報告される配達員との交通トラブル ──このまま放置すればさらなる重大事故と社会的批判の積み重ねにより日本にいられなくなるかもしれないことをウーバー側は理解できないのだろうか。それとも、かつてのカルフールやボーダフォンのように上手く行かなければとっとと日本から撤退すればいいとでも思っているのだろうか。そう勘ぐらざるを得ないほどに、ウーバーという法人のやりたい放題は理解し難い。

●ひの・ひゃくそう/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。2018年、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。近刊『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社)寄草。近著『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。

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