井上:レジェンドたちの取材をずっとしてきたときに、やっぱりめちゃめちゃ面白いんですよ。もう笑いっぱなしで。1969年から1971年って、ぼくでいえば4歳から6歳、白石は生まれる前で、その熱い時代をどうやって表現するかって考えたときに、ガイラさんが「今とおんなじなんだよ。安田講堂で負けて、内ゲバがあって、今と同じ閉塞感にさいなまれていた時代なんだよ」って言われて、「ああ、今と同じならなんとかいけるんじゃないか」って思ったんですけど、荒井さんにとっても、あの頃の時代ってそういうとらえ方なんですか。

政治やめて映画をやろうと思ってきたのに

荒井:うーん、どうなんだろうな。ガイラが言っている閉塞感っていうか、安田講堂が落ちたというんで、石と火炎瓶とゲバ棒だけでは結局、国家権力にはかなわないな、負けるなと。それでもやろうという連中が爆弾闘争を始めたんで、どうしようか、というのはあったよね。おれはもうそこから撤退しようかっていうんで、だから『映画芸術』を手伝っていたんだけど、編集長の小川徹さんとはあまりうまくいかなくてね。それで、前に足立さんに「お前、そんな他人の映画の悪口言ってて面白いか。一緒にやろうと」と言われたのを思い出して、若松プロに行ったんだけど、そしたら今度は足立さんがカンヌ映画祭へ行った帰りにパレスチナに行って『赤-P』を撮ってきて。上映隊長をやれと言われて。「俺はもう政治をやめたんだよ。政治やめて映画をやろうと思ってきたのに、またその係ですか」って言ったんだけど。そこで赤バスに集まってきたのが、安田講堂で散ったというか、燃え尽きた連中じゃなくて、ちょっと遅れてきた連中でね。上映隊は公募してたから、燃焼しきれなくてもうひと花咲かせたいっていう連中が集まってきた。

 それで毎晩、「こんなアジプロ映画をやっていていいのか。それより爆弾の作り方みたいなものを撮ってそれを裏で見せて回った方がいいんじゃないか」とか毎晩議論してたのね。そしたら若松孝二が「上映のアガリの金が来ない。これじゃあバスを買った金も回収できない」って言ってると。そして、なぜか足立さんもちょこちょこ東京へ帰るわけだよ。「何しに帰ってるの?」って聞くと、実はATGで若松さんが撮る『天使の恍惚』(1972年)のシナリオを書いていたんだよね。それで、「なんだ、『赤-P』の上映って運動じゃなかったのか。まだあんたたちATGなんかで商業映画をやる気でいたのか。足立さん、悪いけど、赤バスから降りてくれ」と言ったのね。俺と斎藤博と川上照夫はまあ、若松プロだけど、他のメンバーは若松プロ関係無いからね。若松プロや足立さんに対する不信感が強くなっていたんだ。斎藤と川上はノンポリだけど、めぐみの弔い合戦という感じでバスに乗ってきた。篠原も博多からバスに乗るし。これがいわゆる「赤-P」上映隊の造反だ、赤バス乗っ取りだって言われた事件。若松プロの興行か、運動か、という問題だった。広島では流川のヤクザの事務所に挨拶に行った。ヤーさんは興行だって言うんだよ。若ちゃんと同じ。

井上:若松プロ史観でいうと、荒井が足立を追い出して、バスを乗っ取ったという。森さん、ちなみにですね、最後の曽我部恵一さんの主題歌「なんだっけ?」のプロモーションビデオを白石が撮っているんですよ。それが赤バスで行った上映会で足立さんや荒井さんがめぐみさんの似たような女の子を見つけて心が揺れる、そして上映会が終わった後に泣くっていう話なんですけど、傑作なんですよ。このトークが終わった後、ぜひ見てください。

森:へええ、ちゃんとストーリーがあるんですか。

井上:本篇とぜんぶ同じキャストが演じていて、すごくいいんですよ。

白石:荒井青年が主役です。

森:ユーチューブでは見れないんですか。

井上:見れます。「なんだっけ?」MVで検索したら、見れます。

(写真左上から時計回りに)荒井晴彦、森達也、白石和彌、井上淳一の各氏

(写真左上から時計回りに)荒井晴彦、森達也、白石和彌、井上淳一の各氏

白石:そういえばもう一個、荒井さんに聞きたいことがありまして、映画を見た崔洋一監督が「あれ、荒井は編集できなかったんじゃねえか」て言っているらしいんですが、編集はしていたんですか。

荒井:だって編集と言ったって、足立さんの横でやっていただけで、『赤-P』で太陽が逆さにくっついているのがあるじゃない。あれは俺のミスだよ。裏にくっつけてる。

白石:じゃあ一応、真似事はしていたけど(笑)。

荒井:そうそう。目黒スタジオでフィルムをいじって切ったりつないだり横っちょでやってて。

井上 荒井さん、ほんとうにガラガラ回してテープで貼っていたんですか!

荒井:だから裏に貼っちゃったのがあるんだよ。

白石:じゃあ、映画の中でのようにもっともらしい顔をしてやっていたのは間違いないわけですね。

荒井:そう。そこに「めぐみが死んでる」って電話がかかってきて、目黒スタジオから俺と足立さんがかけつけたんだよ。

白石:さっきから話を聞いていると、映画の中で『赤-P』の時に、「俺、政治をやめて若松プロに来たのに」っていうセリフ、ほぼ荒井さんの言ったそのままになっていますよね。

井上:だって荒井さん本人があの台詞を書いていますから(笑)。でもじゃあ、荒井さん、そんなに悪い映画じゃないってことでいいんですね。

荒井:いやいや、悪いとかいいとかじゃなくて、あの頃、生まれてない人が撮ったり、3歳か4歳だった奴がホンを書いたりね、それは登場人物の俺が言ってんだから違和感はあるでしょう。時代の雰囲気っていうのはむずかしいけど、たとえば、めぐみと俺は『緋牡丹博徒』をふたりで見に行って、酒飲んで、ふたりで主題歌を歌いながらアパートに帰ったりして、そういうのがあればもうちょっとあの時代の雰囲気出たのにね。めぐみはジャズが好きで、やくざ映画なんかあまり見ない子だったから俺が連れてったのかな。フランスかぶれの子だった。だからもうちょっとめぐみ寄りにして、もう少し若松さんの部分を減らしてね。めぐみと篠原が万引きして捕まって、足立さんが引き受けに行った事件があったりね。若松さんがパレスチナへ行っている間が、鬼のいない間みたいで楽しかったのよ。

白石:いやいや、それはその通りなんですよ。それはぼくらもわかっているんですけど、企画した人の意図も変わってくるんで、若松プロっていうのはぼくらにとっての英雄譚なんでそれは描きたい。で、めぐみさんも描きたいということです。

荒井:めぐみはアッちゃんや俺と一緒にやっていたかったんだよ。でも若ちゃんはピンク映画で稼がなきゃいけないんで、そっち側に斎藤博と振り分けられたことの不満とストレスはあったよね。寂しかったたんだろうと。アッちゃんのことも好きだったし、そのころ、俺も片側で運動って言いながら、片側で商売っていうのはダブルスタンダードじゃないかって批判をノートに書いたりしてた。めぐみはその板挟みによる犠牲者でもあったなと思う。だから最後、バスで終わるのも、タイトルも『止められるか、俺たちを』というのもなあ。めぐみのお通夜、下落合の住んでたとこでやったんだけど、安田南がアカペラで「オールライト、オーケー、ユーウィン」を歌った。若松さんが、なんだお前ら、泣いてばっかりいて、追善バクチやろうって、コイコイで香典を巻きあげるんだよ。

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